百倉

□夢物語
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 いつのまにか、グレイが真剣な様子でルーシィの話しを聞いている。いつも無愛想な表情を浮かべているが、今日は一段とポーカーフェイスだ。

「ルーシィ。」

グレイが些か強い口調で、話しを遮った。今までになく真剣な様子のグレイに、ルーシィは口を噤んでしまう。

「なに…?」
「本当に、俺とのことを忘れちまうのか?」
「…忘れ、ちゃうかもしれない、けれど…。」

言葉を詰まらせるルーシィをグレイは横目で見ている。ルーシィは俯いて、唇を噛み締めている。そして、絞り出す様に言った。

「忘れたく、ないよぉっ…。」

今度は嗚咽を漏らして泣き始める。

「ぐ、グレイが、いいんだもん。グレイじゃなきゃ、そんなのっ。」
「………。」

俯いているルーシィを、グレイはまるで、愛しむような瞳で見ている。それには気付かず、ルーシィは言葉を続ける。

「あたし、グレイが大好きだもの。きっと、ここで初めてお話した時から…だって、迷子になったあの日に、あの子とお話した時と同じ気持ちになって…。」

その時、グレイがルーシィの肩を押し上げた。拍子に、弾かれた様に頭の上がったルーシィの唇に、グレイが何の前触れもなく自分のそれを重ねる。ルーシィは目を見開いて身体を固くしていたが、やがてグレイに任せる様に力を抜いた。グレイはルーシィを抱き寄せ、甘く深いキスを贈った。ルーシィもまた、グレイの背に腕を回して、彼の身体を抱きしめた。
 少しして、グレイがルーシィから離れる。ルーシィは少し名残惜しいと思いながら、グレイから離れた。二人はしばらく黙りこんでいたが、やがてグレイが口を開いた。

「…ルーシィはさ。俺が相手でも、結婚は嫌だと思うか?」

やや弱気な気配のある声でそういうグレイに、ルーシィは泣き腫らした目をきょとんとさせた後、少し微笑んで言った。

「ううん、そんなことない。まだ良く分からないけど、グレイと一緒なら、きっと嫌じゃないよ。…きっと。」

グレイを見上げるルーシィは、本当に、グレイが自分の住む世界の住人だったらよかったのに、と心の底から思った。その思いはグレイに通じているのか知れないが、グレイもまた、熱い眼差しをルーシィに向けている。見つめ合ったまま、グレイが言った。

「その言葉に、嘘はないな?」
「…もちろん。」
「俺もルーシィが好きだ。…“ずっと前から”。明日は多分、ここには来られねぇだろうけど、明後日の夜――また、もう一度会おう。」
「…え?」

そこで夢は終わりを告げた。

 時間はあっという間に過ぎて行った。縁談の前夜、姫はどうしても眠りに着く事が出来なかった。グレイと会って話をしたかったのにと、眠れない事を悔やんで、寂しさに涙を流した。その日は食事もとらず、部屋に籠り切っていた。
 早朝、白んだ空の広がる窓の外を眺めて、姫はベッドから起き上がる。

「これで、もうグレイと会うこともなくなるのかしら。」

窓の外を望む瞳から、一筋の涙が伝い落ちた。
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