百倉

□夢物語
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 「…ま、…めさま…。」
「………?」

聞き慣れた声に目が覚めた。はっとして起き上がると、窓の外には月が出ている。満月だ。

「姫様、夕食のお時間ですよ。どうなさいました、姫様。」
「…今、行きます。」

急いで仕度をして部屋を出る。いつもの使用人がいつもの様に、塔の入り口の前に立っている。
 姫が姿を現すと、使用人は仰々しく頭を下げる。

「お待ちしていました、姫様。お食事のお時間です。」
「はい。」
「姫様。」
「なんです?」
「お食事の後、王から姫へお話があるそうです。」
「話し…?」
「数日後の披露宴について、追伸があるとお聞きしています。」

そういえば、と姫は思う。確か、明後日にこの城で、久々に披露宴が行われるのだ。ただ、何の披露宴なのかは、姫は何も聞かされていない。けれど、何故だかあまり良い予感はしなかった。
 食事の後、使用人から告げられていた通り、国王から話があった。

「ルーシィ、今日はお前に良い知らせがある。お前も、もう年頃だろう。身を固めるべきだ。」
「…何を仰りたいんです。」
「お前に良い縁談が来ている。北国の王だ。北国は未開拓とされ、誰にも認められていないと言うが、年々影響力を増している一族だ。しかもその勢力を上げて尽力を尽くされている王は、幼くして王になられたというのに、かなりの実力を備えていると聞いている。必ずや、この国の為にもなろう。明後日には、お付きになるそうだ。いいか。あちら側から是非、とのことだ。粗相のないようにしなさい。」
「待ってください…!!縁談…!?明後日…!?そんな、私にはそんなこと一言も…!!」
「口応えは聞かん。お前は、私の言うとおりにしていればいいのだ。」
「そんなっ…。」
「分かったら下がりなさい。時間を疎かにしてはいけない。」
「……分かりました、お父様。」

感情を抑え込み、畏まって頭を下げ、立ち去る。涙が零れそうになるのを堪えて、ひたすら足を動かしていく。どうやって部屋に帰って来たのか、記憶に残っていない。とにかく早くベッドに入って、夢の中へと入ってしまいたかった。
 けれども、込み上げてくる激しい感情によって、なかなか寝付く事が出来なかった。こんなに激しく感情が揺れ動いたのは、一体いつ以来になるのか。もしかすると、母親を亡くして以来かもしれない。 それから思い切り泣いた後ようやく、泣き疲れて眠ってしまった。
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