百倉

□夢物語
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 「よぉ。」
「!?」

軽い声と共に突拍子もなく肩を叩かれ、思わずびくりと肩を震わせる。そこには、見たことも無い青年が立っている。

「だ、誰?」
「俺の名はグレイ。お前は?」
「わ、私はルーシィ…。」

夢の中なのに名乗るなんて変なの、と思いながら、ルーシィは名乗ってしまった。すると、グレイと名乗った青年は笑みを零した。

「そんなに素直に名乗ってくれるとはな。」
「い、いけなかった…?」
「いーや、こっちとしては好都合。名前知ってる方が何かとイイコト尽くめだから。」
「はあ…?」

言葉の意味が分からずに首を傾げるルーシィを、グレイは楽しそうに眺めている。ルーシィもグレイを見返しながら、いつもと違う夢を見ている事にドキドキしていた。聞きたい事が多すぎて、何から言葉にすれば良いのか分からない。

「ね、ねえ。ここは何処なのですか?」
「ここはお前の夢の中。あと、そんなに畏まらなくていい。」
「じゃあ、少し言葉を砕くわ。それで、あなたは何者?」
「俺は…夢の世界に住む住人ってとこかな。」
「凄い…!私、夢の住人とお話してるのね…!!」

瞳を輝かせるルーシィに、グレイはまた少し笑みを零す。

「それにしても、噂通りの姫さんだな。」
「…私を知ってるの?」
「勿論。俺の世界でも有名さ。」
「…がっかりしたよね?人形みたいで。」

ルーシィの顔に影が落ちる。けれどもグレイは、変わらない様子で笑うばかりだ。

「そんなことねぇよ。むしろ逆だな。こんなに明るい姫さんだったなんて。」
「…本当に、そう思う?」
「思うさ。なんなら、鏡でも見てみるか?ほら。」
「鏡…?」

グレイが取りだした何の変哲もない鏡には、ルーシィの顔が映っている。その顔は人形の様な永久に硬いものではなく、人間らしい、年頃の娘の顔があった。誰がどう見ても、明るく可愛らしい表情を浮かべていると見えるだろう。ルーシィは目を見開いた。

「これ、本当にあたしが映ってるの…?」

信じられない、と言った表情を浮かべてグレイを見るルーシィに対して、グレイは柔和な笑みを浮かべて言った。

「当たり前だろう?」
「だって、みんなあたしの事を避けるし、てっきり、人形の様に無愛想で気に入らない表情になっちゃってるんだって、思ってたのに…。」
「そりゃ思い込みだろ?実際はそうじゃねぇよ。だから、もっと笑ってみな。かわいーんだから。」
「…ありがとう。」

胸に手を当てて、むしろ羨望の眼差しで見詰めてくるルーシィに、グレイは赤面してそっぽを向いた。

「と、ところでさ。お前は城の何処に住んでるんだ?」
「あたしの部屋は、東塔の最上階よ。誰も相手をしてくれないから、そこで景色を眺めたり、本を読んだりするの。そうしてると、退屈で押しつぶされる事もないもの。」
「そうか。」
「…あなたが、現実の世界に居てくれたら良いのに。そうしたらずっと、こうしてお話していられるのに。」
「そいつは…。」

そこで急に、夢が終わりを告げた。
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