なる

□if you...
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さっきの。

「あ、えっと…」

何を指しているかは明白だ。しかしグレイには振られたと思い、もう勇気が萎えてしまっている。
誤魔化し逃げ出したい一心で、必死に言葉を探り視線をさ迷わせる。

「その…」

繋がれていない側の手で、グレイがルーシィの顔の横に手を突く。
雨がグレイの髪を濡らし、雫を溢すのが見えた。
何で、こんな状況なんだろうか。
あたしは振られて、こんな場所に連れて来られて、でもここに居るのは人が来たからみたいで、……あれ?
じゃあ、人が来てなかったら…?

「……俺なら、いいんだよな?」

「…え?」

グレイの言葉の意味を理解する前に、グレイの顔がすぐ近くに寄せられる。
彼の深く濃い色の瞳が伏せられ、あ、ぶつかる、と思い咄嗟に目を閉じた瞬間、唇が塞がれていた。

「………ふ」

最初はそっと、触れるように。
ルーシィが繋がれたグレイの手を震えながら握ると、指を絡め強い力で握り返される。そして角度を変え、深く口付けられる。幾度も幾度も。
ルーシィの顔の横にあったグレイの手はいつしか後頭部へと回され、金色の髪を掻き乱すようにしながら支えている。ルーシィは空いた手をグレイのシャツへと伸ばし、ぎゅっと握った。
何も聴こえない、ただ、互いの呼吸が荒くなるのを感じていた。
普段はひんやりとしているグレイの手が、身体が、唇が、熱い。

「……っ、…グレイじゃないと、やだ」

合間に離れた隙に、上手く呼吸出来ずに弾んだ息で、ルーシィが涙混じりに呟いた。
グレイは再び触れ合わせようとしていた唇を止めてルーシィの瞳を覗き込む。
互いの呼吸が混じり合う。

「グレイが、いい」
「………馬鹿、止めらんねぇだろ」

切なそうにグレイの瞳が細められ、額を軽く触れ合わせる。

「俺だってな…」
「………何?」
「……自分で考えろ」
「な……んん…っ」

ちゃんと言葉で聞きたいのに。
しかし優しく激しい口付けに答えはわかっている。
ずっとこうして、繋がっていられたら良いのに。




「あった!」

階段の下に落ちた傘は誰が畳んでくれたのか、道の脇にそっと置かれていた。

「んな所に傘開いたまま落ちてたら、失踪事件みてぇだな」
「…そうね…」

グレイの言葉にルーシィは苦笑する。
バルゴ辺りなら、無表情で飛んで来るかも知れない。

「つーかオレら、傘要らねぇくらいに濡れてっけどな…」
「でもお気に入りなんだもん!だから見付かって良かったの!」

傘を抱き締め重要性を主張するルーシィを、グレイが笑って見つめる。

「……で、俺のとどっちの傘に入って帰るんだ?」
「…………これは、大事に持って帰ることにするわ」

だから、この後も入れてくれる?と頬を染めて見上げるルーシィに、グレイは思わず赤面する。

「………お前んとこの執事が怒りそうだから、家の近くまでな」
「うん!」

顔を背けながらグレイは答えたが、彼の赤く染まった耳を見ながら、ルーシィは嬉しそうに頷いた。




* * *
Jun. 10



台詞
「……グレイなら、いいよ」

場面
2本の傘と雨の日の帰り道
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