short

□君はオトコノコ。
1ページ/2ページ





 氷帝学園中等部に私はいる。
 
 周りを木に囲まれたベンチ。

 多分、ここを知っているのは私と彼だけ。

 その彼は、ベンチに横たわり、静かに呼吸をしている。



「俺は男だよ」



 寝ている彼の頭をなでようとしたら、手首を掴まれて、低い声でそう言われた瞬間、ゾッとした。



 今まで見てきたジロちゃんが、ジロちゃんじゃなくなった気がした。


「そっそれぐらい知ってるよ」

 今、私の笑顔は引きつってるかな。

 きっとそうだろう。

 軽くながすように、私の手首を掴んでも、まだ指の長さがあまっている大きな手を離そうとするが、離してくれない。


「ちょ……痛いよ……」




「俺は男だよ」


「だから知ってるって!」


 つい怒り口調になってしまう。



 ジロちゃんが、ジロちゃんじゃなくなった。


 目の前に『男』がいるのは元々知っていた。でも、何でだろう。何かが違うんだ。何かが、違う。



 怖い。



「そう……」

 フッと離された手首を片手でさすり、心の中で安堵の溜息をつく。


「あ……も、もうすぐ昼休み終わるから……。それ、言いにきただけだから……じゃあ……」


 平日は毎日やっていた。でも、どうしてだろう。今日はするんじゃなかったと後悔している。




「待ってよ」


 背中から聞こえた声。




 どこも、掴まれていない。



 そう、どこも掴まれていないのに……体が動かない。


 動けない。

 今すぐこの場からいなくなりたいのに。




「もう1度言うよ? 俺は男だよ」


「しっ……てる……って……」


「ふぅん……?」




 ジロちゃんは私の背中の真ん中を、上から下へ指を滑らした。




「っ……」


    

「ねっ、このまま一緒に授業サボッちゃおうよ!」


 いつもの、はつらつとした声に変わった。


「え……」

「いーじゃん! 俺まだ眠いんだCー!」

「ねっ眠いって……授業中ずっと寝てたよね……?」


 体の向きを変え、ジロちゃんの顔を見ると、いつもの可愛い笑顔を作っていた。

 さっきとは比にならない安堵の溜息をついてしまう自分に、ちょっと、嫌気がさしてしまう。


「そーだけどぉ……眠いものは眠いー」


「んー……しょうがないなぁ……」


「一緒には寝ないけど、一緒にいてあげるよ」


「寝ないのー?」


「だって今日の夜、眠れなくなっちゃうでしょ?」

「そんなことないCー」

「それはジロちゃんだけでしょ」

「そうなのー?」

「そうなの」

「ふー……ん……」

「相変わらず寝るの早いな……」

 ベンチの前に座りこむ。

 さっき……。

 ジロちゃん、どうしちゃったんだろう……。

 ジロちゃんが男だなんて知っているよ。


 でも、なんか違ったよ。




 ジロちゃんとは家が隣の幼なじみ。

 昔から暇があれば寝ていて、可愛くて……同い年だけど、弟みたいな存在だった。

 いつも小さい背で私の後ろをつけてきて、時々転んだりして……。

 懐かしいなぁ……。

 今はジロちゃんのほうが大きいけどさ。


 そういえば、手もおっきくなったな……。


 そっと、寝ているジロちゃんの手を両手でさわる。

 おっきくて、ちょっとゴツゴツしてて、だけど、優しい手だ。男の手だ。


「ジロちゃん……」






     
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ