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□君はオトコノコ。
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氷帝学園中等部に私はいる。
周りを木に囲まれたベンチ。
多分、ここを知っているのは私と彼だけ。
その彼は、ベンチに横たわり、静かに呼吸をしている。
「俺は男だよ」
寝ている彼の頭をなでようとしたら、手首を掴まれて、低い声でそう言われた瞬間、ゾッとした。
今まで見てきたジロちゃんが、ジロちゃんじゃなくなった気がした。
「そっそれぐらい知ってるよ」
今、私の笑顔は引きつってるかな。
きっとそうだろう。
軽くながすように、私の手首を掴んでも、まだ指の長さがあまっている大きな手を離そうとするが、離してくれない。
「ちょ……痛いよ……」
「俺は男だよ」
「だから知ってるって!」
つい怒り口調になってしまう。
ジロちゃんが、ジロちゃんじゃなくなった。
目の前に『男』がいるのは元々知っていた。でも、何でだろう。何かが違うんだ。何かが、違う。
怖い。
「そう……」
フッと離された手首を片手でさすり、心の中で安堵の溜息をつく。
「あ……も、もうすぐ昼休み終わるから……。それ、言いにきただけだから……じゃあ……」
平日は毎日やっていた。でも、どうしてだろう。今日はするんじゃなかったと後悔している。
「待ってよ」
背中から聞こえた声。
どこも、掴まれていない。
そう、どこも掴まれていないのに……体が動かない。
動けない。
今すぐこの場からいなくなりたいのに。
「もう1度言うよ? 俺は男だよ」
「しっ……てる……って……」
「ふぅん……?」
ジロちゃんは私の背中の真ん中を、上から下へ指を滑らした。
「っ……」
「ねっ、このまま一緒に授業サボッちゃおうよ!」
いつもの、はつらつとした声に変わった。
「え……」
「いーじゃん! 俺まだ眠いんだCー!」
「ねっ眠いって……授業中ずっと寝てたよね……?」
体の向きを変え、ジロちゃんの顔を見ると、いつもの可愛い笑顔を作っていた。
さっきとは比にならない安堵の溜息をついてしまう自分に、ちょっと、嫌気がさしてしまう。
「そーだけどぉ……眠いものは眠いー」
「んー……しょうがないなぁ……」
「一緒には寝ないけど、一緒にいてあげるよ」
「寝ないのー?」
「だって今日の夜、眠れなくなっちゃうでしょ?」
「そんなことないCー」
「それはジロちゃんだけでしょ」
「そうなのー?」
「そうなの」
「ふー……ん……」
「相変わらず寝るの早いな……」
ベンチの前に座りこむ。
さっき……。
ジロちゃん、どうしちゃったんだろう……。
ジロちゃんが男だなんて知っているよ。
でも、なんか違ったよ。
ジロちゃんとは家が隣の幼なじみ。
昔から暇があれば寝ていて、可愛くて……同い年だけど、弟みたいな存在だった。
いつも小さい背で私の後ろをつけてきて、時々転んだりして……。
懐かしいなぁ……。
今はジロちゃんのほうが大きいけどさ。
そういえば、手もおっきくなったな……。
そっと、寝ているジロちゃんの手を両手でさわる。
おっきくて、ちょっとゴツゴツしてて、だけど、優しい手だ。男の手だ。
「ジロちゃん……」