中編
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##NAME2##の病室を出てから俺は、ただ、がむしゃらに走り続けた。
(##NAME2##……##NAME2##……)
ガっと石に足をとられ、そのまま前へ倒れた。
「……」
ピピピ、ピピ……。
携帯がなる。
「はい」
〈あ、忍足君?〉
相手は##NAME2##の母だった。
〈あ、あのね……。##NAME2##、記憶喪失……なん、です、って……〉
向こうで##NAME2##の母が泣いてるのが分かった。
「記憶、喪失……ですか……」
〈そ、なの……、私のことも忘れてて……。でも、##NAME2##の場合の記憶喪失は……人に、関してだけ……忘れてる……らしいの〉
「人に関しいてだけ……」
〈だから生活には何も差し支えない、らしいの……。怪我が治ったら、学校に……い、かせるわ……〉
「そ、ですか……」
俺はプツッと切る。
「##NAME2##のとこ行かな……」
俺は再び走りだした。走ってる間今までの##NAME2##とのことを思い出していた。
(##NAME2##、ホンマに今までのこと忘れてしまったんか?)
(##NAME2##……)
3年前。
「えっと……どっちやったけ?」
東京に来てそんなに時間が経っていないので、電車のホームがあまり分からなかった。
「この前も間違ってしもたからなぁ……まあ、とりあえずのっとこ」
ヒョイと電車に乗る。
「忍足君! 電車、それじゃなくてこっちだよ!」
「え、ホンマか!?」
「うん」
電車が出るギリギリのところで俺は降りた。
「セーフだね、忍足君!」
「ああ、おおきにな! それで……悪いんやけど自分の名前、知らんのや」
「え、自分? ぁ、私のこと? 私は##NAME1####NAME2##。ヨロシクね」
「##NAME2##か、よろしゅうな」
これが##NAME2##との出会い。
その日の放課後。
「あ、忍足君!」
俺はテニス部のにいたのだが、そこに##NAME2##もいた。
「あ、##NAME2##」
「忍足君、テニス部に入るの?」
「ああ、##NAME2##も?」
「私はマネージャーなるつもり」
「へー、がんばりや」
「忍足君もね」
「な、『忍足君』やなくて『侑士』言うてくれへんか?」
「え? ……侑、士?」
「ん、それでええわ」
それから1年後、俺たちは2年になりそれぞれに対する意識が変わった。『友達』から『恋愛対象』に。
「##NAME2##、一緒に帰らへんか?」
「あ、うんいいよ」
「でな、ちょっと行きたいことあるんやけど」
「いいよ、どこ?」
「遠い所や」
「遠いの?」
「ああ、結構……いや、マジで遠いな」
「そんなに?」
「わー! キレイ!」
##NAME2##と行ったところは、とても綺麗に夕日見える丘。この前の休日にレギュラー陣と来て、##NAME2##に見せたいと思った。さして、ここで告白すると決めた。
「##NAME2##」
「ん?」
「…………」
「え、何その間」
「##NAME2##……好きや、##NAME2##んこと好きなんや。付き合うてくれへんか?」
「え、……マジですか!?」
「大マジや!」
「っ……私も好き! 大好き! 付き合おう!」
「ホンマか! おおきに!」
俺はそのまま##NAME2##を抱きしめ、キスをした。
「……っ、はは!」
気恥ずかしさの後に俺たちは何故か笑いが込み上げてきた。
「ね、いつかまた2人でここに来ようね!」
「ああ、いつかな」
(##NAME2##……あの約束も忘れてるんか?)
##NAME2##の病院に着き、病室に入った。
「あ、忍足君」
ドアを開いた目の前に##NAME2##の母が立っていた。
「あ、今日はおじさん来てないんですか?」
「ええ、今日からは仕事に」
「そうですか」
病室に、##NAME2##がいない事に気がつく。
「……##NAME2##は今、いないんですか?」
「##NAME2##は今、診察に行ってるわ、もうそろそろ帰ってくるはずよ」
おばさんがそう言うと、ドアが開かれた。開いたのは噂をされていた##NAME2##。
「あ、……さっきの……」
(##NAME2##、ホンマに俺んこと忘れてしもたんやな……)
「……俺は忍足侑士いうんや」
「忍足、さん」
「……侑士って呼んでくれ」
「でも……」
「前は俺んことそう呼んでたんや」
「……分かりました、侑士さん」
「敬語、やめてくれへんか? あと『さん』もつけんでええ」
「……分か、った。あの……ところで、前はあなたとどんな関係だったの?」
「え……」
「え? あ、聞いちゃいけなかった?」
「あ、や……」
(分かってた……分かってたんやけど……)
(恋人同士だったこと、ホンマのホンマに忘れてるんやな……。ホンマのこと言ったほうがええんやろか)
「忍足君、本当のこと、言っていいんじゃないかしら……」
まるで俺の心の中が分かってるようにおばさんは言う。
「でも」
「あの、私本当のこと知りたい」
「##NAME2##……。俺は……俺たちはな恋人同士なんや」
「え、恋人!?」
「そうや。1年前から付き合ってるんや」
「そう、なの……」
「でも、そのことも忘れてしもたんやろ?」
「……ごめん」
「いいんや、俺んせいだから……」
「え?」
「忍足君、そんなことはないわよ。##NAME2##、忍足君のせいなんかじゃないからね」
おばさんの言葉に##NAME2##はうなずいた。
「……##NAME2##、俺たちもう恋人同士じゃいられへんのやろ?」
「…………」
「無理せんでええ」
「でも、私、前はあなたのことを好きになったんでしょう?」
「は? そうやけど……それがなんや?」
「なら、また好きにならせて? 私がまあなたのことを好きになれるようにして」
「あ……」
(そう、や……そうやな……)
(##NAME2##が記憶なくしても、また##NAME2##を振り向かせればええんや)
「ああ……。そうさせてもらうわ!」
「がんばって……って、私が言うのもおかしいか」
「そうやな」
久しぶりに笑った。そして、何より##NAME2##の笑顔を久しぶりに見た。
「そうや、おばさん。##NAME2##はいつごろから学校にこれるんですか?」
「んー。いろいろ怪我してるから……腕の骨折はおいとおいて1ヵ月後ぐらいかしらね」
「そうですか……」
「忍足君、明日からはちゃんと学校に行きなさいね」
「はい、そうしますわ」