■Short■

□第二ボタン
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「あ、桜」
暖冬の影響で咲く時期を間違えてしまった桜の花びらを見てチョヌが青空を見上げた。
暖かい陽が瞳に落ちる。
「本当だ。ちょっと早過ぎるよな」
ふわふわと落ちてくる薄桃色の花びらを見て苦笑いをするアニキ。上手く片手でその薄桃色を掴んで、じっと見つめる。
「何してんだよ」
突然立ち止まってしまった二人を急かすようにトロが駆け寄って声を掛けた。片手に参考書。
「お前らと違って俺はまだ受験残ってんだから早く帰ろうぜ」
「先帰ればいいじゃん」
即行チョヌに軽く流されてしまい、トロは眉間に皺を寄せた。
三年間同じ学校に通った友人にこうも軽くあしらわれると、とても虚しい気分になる。
がっくりと肩を落とすトロには目も遣らずにずっと花びらを眺めていたアニキが、街の雑踏に掻き消されてしまいそうなほど小さく呟いた。
「…もうすぐ卒業なんだな」
三年間という長いようで短い時間一緒に騒いだ友との別れが、段々と近くなっている。
「卒業…か。そういやアニキって大学どこなの」
「あ?法大だけど」
「は!?法大って…」
アニキは割りと、というかかなり勉強が出来たらしい。法大はかなりの難関大学である。
「…で、チョヌは?」
「音楽」
チョヌは進学はせずに音楽活動に専念することにしていた。ボーカリストとして好きなように生きていたかった。
「そっか…アニキはさ、なんでチョヌと音楽続けないんだ?」
アニキとチョヌは同じバントのメンバーだった。地元ではそこそこ名前も有名で、評判もよかったのだ。
「俺、弁護士になりたいんだ」
「………そっ、か」
それぞれが別れて進んでいく。分岐点は必ず来てしまうのだ。
アニキの目標を聞いたときチョヌは何も言わなかった。
「ま、人それぞれか。俺も頑張らなきゃなー」
「卒業式とか実感ないよな」
「アニキなんか卒業式やばいんじゃねぇの?」
「なんで」
「ファンの子が皆告白しに来て」
「ないない」
「第二ボタンだけじゃなくて学ラン全部取られたりして」
アニキとトロが笑いながら話していると、それまで黙って空を見上げていたチョヌがふと口を開いた。
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