■Novel■

□◆World Of War◆
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真っ暗な部屋
漂うは
黒い鮮血の匂い

此処はどこ
母さんは?父さんは?


僕は

どこ



部屋の扉が鈍い音を立ててゆっくりと開く。
入ってきた男が言いながら手を差し延べた。
「おいで。お父さんとお母さんに会わせてあげる」
低い耳の奥に残る声。
恐怖で震える足をどうにか立たせて、男を見ないように近寄る。
正面まで近付き、そっと白衣の裾を掴んだ。
その瞬間に鼻を通って脳を直撃した
血の匂い。
思わず離した小さな手を男は無理矢理引いて廊下に出る。
長い長い廊下を満たす鮮血の匂い。
吐気が腹の底から押し寄せてくる。

目の前に現れた分厚い大きな扉。
少しくらいの衝撃ではびくともしなそうなそれには、赤い文字でWOWと書かれている。
扉脇の壁についている小さな機械に男がプラスチックのカードを通すと、機械音が低く響いて扉が重そうに開いた。
手を引かれて入った中は廊下よりもさらに濃い血の匂いが漂っていた。
抑え切れなくなった吐気が喉まで上り、こんなところで吐くわけにはいかないと開いている手で口を覆った。
そんなことは関係ないと男はどんどん手を引いて部屋の奥に進む。
奥に行けば行くほど人間の叫び声と強い血の匂いが全身に響いた。

助けて

もう嫌だ

痛い

苦しい

お母さん

頭がおかしくなりそうで耳を覆った。
それでも腹の底に響く。

きつく目を閉じていた。
どれ程奥まで来ただろうか。
男の足が止まったのを合図に恐る恐る目を開く。
目の前に立っている、二つのシャッター。
No.18
No.19
二つの並んだ数字。
男はにやりと気味の悪い笑みを見せてまた低い声で言った。
「お父さんとお母さんに会わせてあげる」
スイッチが1つ押されたのと同時に鉄の擦れる音がしてシャッターがゆっくりと上がり、隠していたものを見せる。
そこに佇んでいたものは

ガラスケースに満たされた薄黄色の液体に浮かぶ異形の生き物。
心臓が皮膚の外に飛び出し、眼球が溢れ関節から骨が突き出し、全身に血管が浮き出ている。
とても人間とは思えないその顔には見覚えがあった。

「父さん……母さん…?」

「そうだよ。これが君のお父さんとお母さんだ」


嘘だ。

嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。

だって父さんはこんな顔じゃない。
母さんはこんな形じゃない。

これは 何。


「お父さんとお母さんだよ」


嘘だ!!!
 

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