萌尽きた物

□十万御礼サスダテアンケ第二位戦国サスダテ
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「疲れてるね」
「……んなこた、ねーよ」
「見るからに疲れてるよ」

いつもの旦那のお使いでやってきた奥州、独眼竜の執務室で、オレは意外な物を見た。
書状の山に顔を突っ伏したまま、失神してるかのよーにピクリとも動かない竜の旦那だ。
なにせ、オレの気配にも気付かないんだから重症だ。

「旦那、竜のだーんなっ」起こしちゃうのも悪いかなぁ、と佐助は思ったが、主人の書状と遣い物がある。
直に渡さなかったら、口喧しい(行動も)幼い主人に何を言われるか分かったもんじゃない。
「旦那…竜の旦那、悪いけど起きて」
揺り起こせば竜は小さく「うぅん」とむずがり、閉じていた隻眼を何度か瞬かせる。
「んぁ…?猿飛…?」
「オハヨウ、竜の旦那」
少しだけ伸びがある甘い声が佐助は好きだった。
未だ寝呆け眼の政宗を見て、佐助は眉を下げて少し笑う。
「疲れてるね」
「……んなこた、ねーよ」
政宗がぐうっと身体を延ばす。
「見るからに疲れてるよ」
くすくす笑う佐助に、政宗は「疲れてねーって」と再び反論してきた。
いやいや、どうみても疲れてるでしょ。だってオレの気配に気付かないって相当だよ?
その上さぁ、書きかけの手紙?の上に突っ伏しちゃってたもんだから、竜の旦那の頬に写経みたいに文字が写ってる。

「んじゃ、疲れてないって事にしましょうかね。本当、強情なんだから」
オレはそう云うと、旦那からの手紙もろもろ一式を竜の旦那に手渡した。
「真田からか?…まったく」
「ハハ。仕事増やしちゃったみたいでごめんねぇ〜」
明ら様に不機嫌になった政宗に、佐助は謝罪をする。
そして、
「でもさぁ、顔に墨付けながら強がったって格好つかないよ」
苦笑しながら政宗の頬に付いている墨汁を指摘してやれば、政宗の顔が真っ赤になった。
「――なっ!!」
慌てた政宗が袖袂で拭うが、乾いてしまった墨は中々落ちない。
「ふふ、可愛い」
「だ、誰がだっ!」
佐助の言葉に政宗は益々顔を赤くし、激しく袖で擦り始める。
その仕草はまるで涎を拭う子供。それがまた幼く可愛い。
「何笑ってんだよ!クッソ!」
佐助が笑っているのが気に食わないのか、書きかけの書状やら積み上げてあった書状を政宗は手当たり次第投げ付けてくる。
「あっはっは…ごめんごめん」
佐助は投げられた書状たちを、かるーく掴んでは足元に置いていく。

疲れてるから、すーぐ怒るんだよ。

「お詫びといっちゃあなんだけど」
「ぅおわっ!?」
佐助は政宗の身体を俵担ぎに抱えあげると縁側へ駆け出し、指笛で大烏を呼び寄せる。
「―What's a doing!?何しやがる!テメエ、下ろせ!」
暴れる政宗を余所に佐助は烏の脚に掴まる。
普段佐助と幸村を運ぶ忍烏にとって二人を運ぶのは容易い事。
烏は一声高く鳴くとはばたきはじめた。
そして笑うような声で、
「だーめ。息抜きしまショ」
タン!と小気味よい音を発てて政宗を担いだままで上空に舞った。


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