隣人

□隣人〜十三幕〜
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いつもより二時間も早い【魅惑の月】のクローズタイム。

「お疲れ様!今日は飲むわよォ!!」
ママがパンパンと手を打ち鳴らした。
「路上ゲロの覚悟は出来てる?」
店の姉さんであるマーガレットが笑いながら、政宗に中指を突き立てる。
「そのコトバ、そっくり返すぜ」
政宗も中指を立て、べーっと舌を出す。

本日のかぐや姫の出で立ちは、何度か店でも披露したチャイナ仕様のスーツ。
生地は軟らかなベロア、色は瑠璃紺、シンプルなラインが細身の身体によく似合う。それに加えて大振りの白のフェイクファーのショールを肩に引っ掛けた政宗は本当に華やかだった。
客受けも良かった。
実はこのスーツ。
『これなら、店出しても接客出来んじゃない?』と、ママがPresentしてくれたものだった。
――イヤ、スカートは履けネーだろ…。いっくらロンタイっつても…。
内心、政宗はちょっと困ったのだが。
それでもママの心遣いは凄く嬉しかった。だから、ラストの今日も、この衣裳に決めたのだ。
「でもいいんですか?こんなに早く店じまいして…。いくら送別会と云えども‥何か悪いですね」
光秀が申し訳なさそうにママに声を掛けた。
「イイのよ、ベッツに。雨だしさ、お客も殆ど入ってなかったんだもん。マ、もうちょい人も来てくれりゃ話も違ったケドね」
新しいボトルを用意しながら、ママがあっけらかんと笑った。
テーブルを片付けていたベルが、
「言えば良かったじゃん。今日がラストだって。そしたら絶対かぐやちゃん目当てのお客も集まったのにさ」
と、納得いかない顔で言う。
「インだよ。湿っぽいの嫌いだし、何よりCoolじゃねぇだろ」
次代の『かぐや』に、政宗はヒラヒラと手を振った。

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