隣人

□隣人〜十一幕〜
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嗅ぎ慣れた湿っぽい布団の匂い。
「…旦那、気が付いた?」
そして、佐助の不安げな声。ぼんやりと幸村は薄目を開けて、
「…うむ…平気…だ…」
そう、か細く答えて、手を振ってみせた。
どうやら派手にブッ倒れたらしいが、しっかりと記憶は残っていた。
倒れる寸前の事までも覚えてる。

確か、現場を上がる直前の頃だったか。毛利さんに言われて、セメント袋を荷台に乗せようとして…それから唐突にバツンと記憶を無くしたのだ。

「お!気が付いたな、幸村!」
ひょっこりと部屋を覗いたその顔は、慶次さんだった。
「慶次さん…どうして?…」
「どうしてって、随分なご挨拶だなぁ」
身体を起こした幸村と対面するように、慶次は笑いながらその場に座り込んだ。
「前田さんがココまで運んで来てくれたんだよ。びっくりしたよ、ドア開けたら幸村背負ってるから」
「そ、そうだったんですか!…有難うございます、すいませんでした…」
幸村は慶次に向き直って礼を言うと、慶次は「インヤ」と手を振って笑った。
そして。
「ここまで運転してきたの元就だかんなァ。なんだかんだで一番心配してたし、帰る時もスゲー気にしてたし」
「…そうだったんですか」


何だか妙に恥ずかしかった。こんな不様なトコロを色々な人に見せてしまい、尚且つ心配までさせて。

恥ずかしさと申し訳無さが押し寄せてくる。



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