隣人

□2011.三十万御礼文
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「ホラかぐやちゃん、写真嫌いだからぁ」
翌日、【魅惑の月】のバーカウンターで、沈没船ヨロシク沈んだ雰囲気をかもしながら一人で飲んでいたら、目ざとくやってきたベルさんにコトのあらましを話すとさっきの答えが返ってきた。
「…え?そ、そうなんすか?初めて聞きました…」
初耳、だ。
政宗さんが写真嫌いだなんて。
いや、それなら昨夜の行動(カメラ粉砕)も頷ける…。
「でも、政宗さ…いや。かぐやさんって写真とか好きそうな感じですよね?」
「そうなのよう。何かコンプレックスって云うの?キレーな顔立ちなのにねっ!勿体ないわ〜。」
『アタシには負けるけどぉ』、とベルさんが色素の薄い髪を指で巻きながら笑う。
「かぐやちゃん、この店入る時も履歴書無いからァ。アタシもかぐやちゃんの写真って見た事無いのよねぇ。アタシだったら生い立ちからの写真集作っちゃうけど!だから、幸村くん。あのプリクラは貴重よ〜」
そう言うと、ステージへと目を向ける。其処には白い浴衣姿で優雅に舞を披露するかぐやが居た。
淡い光の中で踊る彼は、浴衣に描かれた金魚の様にひらひらと舞う。締められた縮緬帯は赤く、本当に金魚の尾鰭の様だ。
「…あっ?!」
そこで幸村は、あるモノを見る。
「今、携帯で写真撮ってる人居ましたけど…?!」
写真嫌いなら携帯のカメラもダメなのでは、と幸村はベルに尋ねる。
「ああ。ステージに上がってる時はオッケーみたいよ?だってほら、うまく撮れる訳ないでしょ?」
見れば確かに、政宗さんはずっと動いている。
「それに、こんな煙草だらけで視界がクリアな状態でもないしね。だから余り気にしないんじゃない〜?」
「じゃあ、この店だったら携帯で写真を撮っても平気なんですね!」
嬉々とする幸村にベルが、『ブー』と口を尖らせながら幸村の発言を否定した。
何故、と問えば。
「それは間違いよ、幸村クン。前にテーブルで付いたお客さんに、写メられた時にね?かぐやちゃん、そのお客さんの携帯を逆向きに折り畳んでいたのよねぇ」
そう言ってベルさんは、携帯を折り畳む仕草をクネクネと何度かしてみせた。
「まっ、幸村くんもケータイ壊されたくなきゃ迂闊にかぐやちゃんの事、写メろうなんて考えないほうがいーわよぅ。機種交換も高いしね」
ベルの笑顔に幸村はただ顔を曇らせるだけだった。

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