隣人

□2010年クリスマス
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一年目の冬。付き合って初めてのクリスマス。

二年目の冬。初めて彼からプレゼントを貰った。

そして3年目の今年。

「今年のクリスマスは中止すっぞ」
「ええええ!?な、ななな何でですかァ!?何で中止なんですか!理由は!理由…ぐはぁっ!」

…政宗さんに理由を問い詰めたら、強烈な右ストレートを食らった。

「理由はどーでも良い。とにかくクリスマスは中止だ」
「…はい」
政宗さんの言葉にオレは静かに頷くしかなかった。


「ええっ!それで幸村クン殴っちゃったのー?」
「yes.だってしょうがねぇだろ。アイツ喧しいし」
そんな二人のやり取りが行われているのは、バー『魅惑の月』
開店前のカウンターで御絞りを畳みながら、政宗(源氏名かぐや)とベルは会話を続ける。
「それで幸村クン、頬腫らしていたのねェ。カーワイソー」
「なぁにがカーワイソー、だ」
ケッとかぐやは悪態を吐いて言い放った。
「アイツぁなあ、今月入って三度も仕事場でぶっ倒れたんだ」
「えっ?今月って…まだ二週間経ってないじゃない!幸村クン、そんなに仕事ハードなの?」
「チッガウわ、ボケ!あの馬鹿はな、今月に入った途端バイトを一本入れやがってな。『クリスマス期待してて下さい!』とか抜かしやがって…まずはテメェの健康返りみやがれッてんだ」
手元の御絞りを畳み終わると、かぐやはタバコに火を点けて煙を深く吸い込んだ。
幸村の仕事は土方だ。朝から晩まで武田組で働く。一週間に四日程度だが島津組の助っ人に入る為、丸一日肉体労働の日がある。
そんな合間を縫ってバイトを増やしたとか云うもんだから、ホンット馬鹿としか言い様が無いとかぐやは思う。
しかも、そのバイトの事だって幸村が倒れた後にかぐやは知ったから、尚更だ。
「でもぉ?かぐやちゃんは何処で幸村クンのバイトを知ったの?」
「…慶次のヤツに聞いた」
ベルの問いにかぐやは忌々しげに口を開く。
「慶次くん…ああ、あの背のタッかい子でしょお?うふ、あの子タイプなのよねぇ。ナンテ云うの?ホラ、アタシってがたいの良い男に守られたいっていうか」
「まあ、そんなんどーでもインだよ」
うふふ、と娜を作りながら急に自身の好みを語りだしたベルの言葉をかぐやは一刀両断し、「それでな」と話を続けた。
「きぃっ!何よ!たまにはアタシの恋愛相談に乗ってくれたっていーじゃない!」
「ヤなこった!何でオレがテメェのグタグタな夢見話に付き合わなきゃいけねぇんだよ!」
「んまっ!夢見話や恋愛話はオンナノコの必需品よ!」
「誰がオンナノコだ!」


ぎゃあぎゃあと二人が騒いでる間に、店の看板が点いた。オカマバー『魅惑の月』の一日が幕を開けた為、話はそれっきりになった。

■ ■ ■

幸村にとって『クリスマス』と云うのは大切な日だ。
別に、キリスト信者ってワケでもないしサンタクロースを信じている歳でもない。
ただ、クリスマスと云う日は。12月25日は特別なのだ。
仕事一筋に生きてきた幸村にとって、政宗に初めてプレゼントを渡して、成功の後に大失敗に終わった忌々しい記念日なのだ。
それを今年こそ!今年こそ払拭したい!
幸村は拳をグッと握り締める。

『お洒落な…まあ、自分が考えているお洒落と政宗さんが考えているお洒落の基準が違うかもしれないが、今年はお洒落なレストランで夕食をしたい!』と幸村は考えていた。
…しかし実際は、「クリスマスシーズンなんざ掻き入れ時だ!そんな暇あっか、バァカ!」と言われたのだが、それは聞かなかった事にしておきたい。
あとプレゼントも用意しなきゃだ。
そう思って、バイトを増やした。

「何何ィ?幸村、バイト探してんのかい?じゃあ、トシの所に口聞いてやろっか?」
慶次さんの叔父さん夫妻の小さな居酒屋で、働かせてもらえる事になった。
体力には自信がある。

「真田くん!二番にコレ運んで」
「分かりました!」
ガラガラガッシャーン!

………ただ、飲食業なんてもんはやった事が無い為、失敗だらけだった。

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