キリリク

□嫉妬と夜桜(キリリク)
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幾月顔を見てないだろうか。
幾月声を聞いてないだろうか。

「…2…4…6…半年か」ぼんやりと宙を見ながら、政宗は折った指を数えて呟いた。
半年。半年も幸村に逢ってない。
便りの無いのは元気な証拠―と云うが、ここまで長いのは正直初めてだった。
「大体、便りが無くてなんで無事ってワカンダヨ…」
戦をしてる、と云う話は聞かない。ならば何があったというのだろうか。
政宗は不安になって何度も筆を取り、早馬で手紙を運ばせたり、時には黒脛巾に持たせたりもした。

しかし、返事は来なかった。
「…一体どうしたんだよ…幸村…」
手紙は届いて無いのだろうか?もしや、届いてても返事を書けない理由でもあるのだろうか?
政宗の胸がじくじくと痛んだ。不安だけが募っていく。

政宗は文机から幾枚もの書状を取り出した。全て幸村からの手紙だ。
広げて、紙面に目を落とせば幸村の顔が浮かぶ。

ああ、逢いたい。
逢って話がしたい。

書いてある事はたわいもない事。
日常の事、自分の事、虎のおっさんの事…。

……オレの事。

何枚目かの手紙を読んでいる時だった。
『――こちらでは、桜がほころんで参りました』
「…桜かァ」
部屋の障子を開けてみれば、庭先はうっすらではあるが雪が積もっていて、桜どころか梅すら咲く気配はない。
「奥州の春はまだまだだな…」
溜息を一つついて、政宗は部屋に戻った。



オレの待つ春も――などと、柄にも無く弱気になりながら。


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