キリリク

□嫉妬と夜桜(キリリク)
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「政宗様」
障子の向うから小十郎が声を掛けてきた。
「使者の方が書状をもっ「見せろ!」
小十郎の言葉が言い終わらないうちに政宗は、その手にある物を取り上げて目を走らせる。

―――が。
書いてある事は政宗が望んでいるものではなく。
「………コレ、誰が持って来たんだ?」
「豊臣の使者ですが」
『何か悪い知らせですか?』と小十郎が心配そうに言ってきた。
政宗は盛大に肩を落とした。
「あの猿、詫びを入れに上洛しろってよ。まーだ根に持ってんのか…」
そう言いながら政宗はビリビリと書状を破いた。

…あぁ、こんな手紙今はどーでもいいんだよ……。

「上洛…なさるおつもりですか?」
「行かなきゃだろうなぁ。…ま、猿の面ァ拝んで桜見物と行くかぁ」
伸びを一つして政宗は言った。
京に行ったら幸村に土産でも買おう。
アイツ、甘味が好きだから作り方を覚えて次に逢ったら作ってやろう。

そう考えたら、京に行くのも少しは楽しくなりそうだ。







京に着いたのは夜だった。
しかし、さすが都。キラキラとした灯りが大路を彩っていた。
「政宗様、宿はどうなさいますか?」
「んー…まぁ、2、3日か。任せる」
「畏まりました」
小十郎は一礼して、その場を後にした。
政宗は、焚かれた篝火に舞う夜桜をぼんやりと見つめていた。
「―あ…れ?」
人の波に紛れて通った横顔。見覚えがあった。
政宗は慌てて走りだしたが、その人物はすでに乱雑とした波に飲まれ見えなくなっていた。



政宗は間違えようもないその人物の名を口にした。
――「幸村」と。


慌てた様に小十郎が駆け寄ってきた。
「政宗様!何処に行かれたかと思いましたよ!さ、宿はあちらです。行きましょう」
「…あぁ」
ちらり、と幸村らしき人物が向かった方を見れば、誘うように揚柳がなびいていた。


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