キリリク

□潤溽炎(キリリク)
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『ご領主…某を探しておいでか?』
人の良さそうな柔和な笑みを浮かべ、男は言う。
「…別に…てめぇを探してたワケじゃねえよ」
『左様でござるか』
そう答えると、男は政宗の隣に座った。
「お待たせ致しましたぁ」
店の娘が茶と茶菓子を運んで「ごゆっくり」と笑いながら去っていった。

「……」
『……』
蒼空を鳶が飛んでいた。
――気まずい、と、政宗は思った。
この空気をどうすればいいのか。いつもの饒舌が、雄弁が全く出てきやしない。

会いたくない、と云えば嘘になる。
だが、探してたワケでは無く、忘れようとしていた。


『ご領主』
男が話し掛けてきて、政宗は飛び上がる程動揺した。
「なっ…何だ。」
変に声も震えながら、男を見る。男は何処か遠くを見ながら話した。
『此処は人が多い』
「ハ……?」
何を云うのかと思ったら、男に手を掴まれ『行くでござる』と引っ張られた。
「オ…オイ!」
政宗は懐から慌てて銭を置くと、男に引っ張られる様についていった。




男に連れられてきた場所は、宿場から離れた山間の静かな川辺だった。
『此処は某が好きな場所なのでござる』
「そーかい」
川辺の草の上に腰を下ろし、そっけなく政宗は言う。男を見れば、太陽の光が銀煤の髪を照らしていた。
気のせいか、微かに朱掛かっている様にも見えた。

「お前は何者なんだ。」
『妖でござる。』
「昼日中から出る妖がいるかよ」
『別に、丑の刻だけが魑魅魍魎の出る刻限とは限りませぬ。見えぬだけで、あらゆる所に我らは居る。』
男は笑みを絶やさずに、政宗の隣へと腰を下ろした。
―チャリン。
胸の六文銭が音を立てた。
「お前さ…上田に縁の在る者だったのか?ソレ、真田の旗印だろ。」
不惜身命の六文銭。三途の河の渡し賃。
そんなもの身に付けてりゃ、何か縁があるのかと思いきや。


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