キリリク

□苦い恋(キリリク)
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ソレはいつも政宗殿の身近にある。

ソレはいつも政宗殿を慰めている。

そして政宗殿はソレをいつも口にしておられる。



白くて、優美な指が絡める様にソレを掴み上げる。
「…でよぉ」
ソレが口元に運ばれ、薄くて桜の様な唇がソレに触れる。
絡める様に、赤い舌が時折見え隠れする。
「だからさ…」
まるで睦事を思い出させる。何とも艶っぽい。
ソレはいつも政宗殿に銜えられて……。
「オイ!聞いてんのか、真田幸村!!」
「ハヒィ!」
いきなり怒鳴られ、幸村は変な声を上げ竦み上がった。
「先刻から人が話してりゃ、てんで上の空だなァ。一体何を考えてやがった?アァ?」
「あ、…いや、その…」
政宗に睨まれて、幸村は言葉に詰まる。
「んだよ。言えねぇコトか」
ソレを右手に持ったまま、政宗は幸村に近づいた。
幸村は政宗の顔をまともに見れず、思わず俯いてしまった。


――言えない。
言える訳がないだろう。
煙管如きに、嫉妬などと。
無機物に、それも物言わぬ道具だ。
しかし、自分以外の物が政宗殿の唇に触れるのは、何だか面白くなくて。
それに、自分は睦事の時にしかあの艶やかな唇に触れられないのだ。

「…おい、幸「政宗様、申し訳ございません。少々宜しいでしょうか?」
障子越しから、小十郎が政宗を呼んだ。
「何だ、小十郎。」
煙管を煙草盆に置き、政宗は小十郎の元へ向かう。
幸村は少しだけ顔を上げ、主人の手から離れた煙管を見つめた。
「…そうか。おい、幸村。悪いが少し待っててくれ。何、四半刻もかからんだろうから」
それだけ言うと政宗は部屋から出て行ってしまった。

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