キリリク
□苦い恋(キリリク)
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がらん、とした部屋には。
主人を失った煙管と自分。
主人を失った煙管は、ゆったりと白煙を漂わせていた。
幸村はソレにゆっくりと近づく。まるで触れてはいけないものに、触れるような、そんな錯覚に捉われる。
『――先程まで政宗殿が口にしていた煙管。』
そう思うと心臓が早鐘の様に脈を打つ。何だかイケナイ事をしている様な気もするが、それも手伝って妙な興奮を覚える。
震える手で、幸村は煙管を持ち上げた。
あの優美な、白い指が。
あの艶やかな唇が。
幸村は目を閉じ、今は此処に居ない政宗の事を思い描く。
『―幸村』
目蓋の裏の竜は、誘うように自分の名を呼んで。
「…政宗…殿」
それに応えるように、幸村は煙管へと口を付けた。
――ああ。
政宗殿と同じ味だ。
それは、口付けた時と同じ。
少しだけ息を吸い込めば、煙草独特の苦い刺すような煙が口に広がった。
「ゲホッ!ケホケホ…」
慣れぬ苦さに幸村はむせ返り、目尻にはうっすらと涙を浮かべた。
何だか、ひどく切ない気持ちになった。
「…自分は、馬鹿か…」
まるで一人相撲だ。自分だけ恋慕の情を抱いている様で。
こんな物にまで、嫉妬するなどと。
『政宗殿はしてくださらぬだろう』
自分が身に付けている物に、触れる物に嫉妬などと。
自分がここまで女々しく、独占欲の強い人間だとは思わなかった。
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