キリリク

□夏の記憶は陽炎(キリリク)
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真田の旦那と奥州に行った時の事だ。
珍しく、本当に珍しい事に、竜の旦那がオレに相談をしてきた。

「幸村と海に行きてぇんだケドよ…。…どうしたらイイ?」
――なんて。

何時もの(暴走しまくりーで、旦那しか見てない何処かブッ飛んだ女の子思考の)独眼竜とは裏腹に、珍しくマトモな事を言ってきたので、
「そりゃあ旦那喜ぶよ!何てったって山育ちだからね!海なんて行った事ないんじゃない?」
と、オレは答えた。
そしたら、竜の旦那はスゲー嬉しそうに(そりゃあオレ様も惚れちゃいそうな顔で)「そっか!じゃあ、明日にでも言ってみる」って、言ったんだ。




それなのに、ねぇ!!



――翌朝。

「海?」
朝食前のドンパチ(旦那たち曰く軽い鍛練)を済ませた真田の旦那へ、竜の旦那が例の話を切り出していた。
「ya.この時期の海は最高だからな。暑くも寒くもねぇし…。あ、でも泳ぐのは無理だけどよ…」
少しばかり緊張気味に言葉を紡ぐ竜の旦那は、微笑ましい。
いつもこんなんだったら、オレや片倉さんの心労は少ないんだろーななんて、お櫃を抱えながらぼんやりと思っていた。
「それに、浜にも良い魚が揚がるしよ…なぁ、もしアンタが良かったら一緒に行かねぇか…?」
地面に刀で『のの字』を書きながら誘う竜の旦那は、ちょっと不気味だったけど。
それを聞いた旦那は、
「それは楽しみでござる」
と、竜の旦那の手を取りにこやかに笑った。
「…そ…そっか!(キュン)」
野イチゴみたいに顔を真っ赤にする竜の旦那。
相変わらず真田の旦那の前じゃあ、オトメなんだよねぇ……。

だが、あろう事か誰も――。そう、このオレ様ですら予想しなかった言葉を真田の旦那は高らかに言ったのだ。
「某、随分昔に直江殿と一度行ったっきりでござる」

――しかも笑って。

その言葉を聞いた竜の旦那は、まるで地蔵様みたいに固まっちまった。

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