キリリク

□すいーとすいーと?(キリリク)
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「不味い」

ポイ、と放られた箸は乾いた音を立てて畳を転がっていく。
「そうでござろうか?某は美味いと思うが…」
転がった箸を掴みながら、幸村が感想を云うと、
「Ha!テメーみてぇな味音痴にゃ、丁度イイだろーよ!」
鼻で笑いながら政宗は、幸村を皮肉った。
「ひどいでござるなぁ」
困ったように笑って、幸村は拾った箸を懐紙で拭い、政宗に手渡した。


―――腑に落ちない。

政宗はそう思う。

政宗が上田に足を運ぶ時、幸村は大層驚いて、次の瞬間には今にも泣きだすんじゃないか、と云わんばかりに破顔して政宗を抱き締めて来る。
『―何がそんなに嬉しいのやら』
いつも異常な歓迎をする幸村は、確かに変だ。
しかも、怒らないのだ。
…『怒らない』と云うのとちょっと違うかもしれないが、取り敢えずおかしいと政宗は前々から思う。
一言とて『違う』とは言わない。突っ掛かって、喰い掛かって来ない。
それが政宗の気持ちを不必要に苛立たせた。
いつもより強めな暴言を吐いても、それでも。

「しかたないでござるなぁ」
とか。
「政宗殿には適いませぬなぁ」
とか。

ダラシナイツラで、笑うのだ。

一体、真田幸村はどうしたってんだ。


「政宗殿、如何された?」
「…ん、あ、いや」
上の空でいると、幸村が話し掛けてきた。
「食事がお気に召さない様なら、酒でも持って来させましょうか?」
幸村の提案に政宗は頷くと、「なれば、しばしお待ちを」と言って、席を外した。

『まさか自分で取りに行くんじゃねーだろーな…。』
魚を突きながら、政宗は幸村の後ろ姿を目で追った。
すると政宗の思考通り、幸村は部屋を後にした。
やっぱり、真田幸村はオカシイ。
特に上田にオレが居る時の真田幸村は。

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