キリリク

□褒美=御灸*(フリリク)
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政宗に差し出された粥を口に運びながら、幸村は胸中感動に打ち震える。
いつもの政宗なら罵詈雑言は当たり前。なのにだ。こんな風に甲斐甲斐しく世話を焼く政宗を、幸村は見たことが無かった。
だからこそ、その反動と云うか、ギャップが激しかった。
現代で云えば《萌え》。それも《ツンデレ萌え》とはこの事。
のちに子々孫々この手の趣味に走るのだが、今は割愛する。
政宗から粥を食べさせてもらいながら、幸村は考える。
『今なら…少しだけわがままを申しても怒られぬのではないだろうか…』
何より、機嫌もよさそうだ。
ちょっとだけ、良からぬ事を考えていると。
「もう少し食えるか?」
椀を手にした政宗が幸村に聞いてくる。
「あっ、いや。もう、良いでござる」
「そうか、じゃあ薬でも飲むか。…えーと、これか?」
小さな薬包紙を摘み上げると、幸村に掲げて見せた。
それを見た途端、幸村はしかめっ面になる。
「どうした?これじゃねえのか?」
「いや…それでござるが……」
幸村は歯切れ悪く、小さな声で「飲みたくない」と云った。
「飲みたくない…って、オメェ。飲まなきゃ治んねーだろーが」
呆れた声がひとつ。
「しかし…佐助の薬は…どうにも苦く」
「……苦いって」
呆れた声がふたつ。
「政宗殿も飲んで頂ければ分かるが、佐助の作る薬は恐ろしく苦いのだ!何が入ってるかも分からぬし!!」
実際、「薬を作る」と言った忍が、手にしていた麻袋は動いていた。
けれど、材料に《何が》使われているかを知った所で、飲む気はさらさらない。
「あのなぁ…薬なんてみんな苦いし、自分で作んねー限り何が入ってっかわかんねーよ…。第一、アンタ付きの忍が作ったんだから、信用して飲んでやるのが主人だろーが」
「……うぅ」
そう言われてしまっては元も子もない。政宗の言ってる事は正論なのだ。
ならば。

「で、では…政宗殿。飲んだら…褒美を」
「An?」
ジロリ、と睨まれて幸村はやっぱりいいです、と口を告ぐんだ。
「…褒美、ねぇ」
「いや、いいのだ。戯言と思ッ「いいぜ」
不敵な笑みを浮かべて、政宗は幸村に承諾の言葉を吐く。
まさか許可が出るなんて思わず、幸村はぽかんとしてしまう。
「ただし、オレが帰っても今後はきちんと薬は飲めよ。それが条件だ」
「も、もちろんでござる!!」
ああ!やっぱり風邪とは素晴らしいモノなのだ。
幸村は二度目の感謝を天に捧げた。


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