キリリク

□籠の鳥*(フリリク)
2ページ/9ページ

「う……―ん」
体が、怠い。まるで鉛の様だ。それに、頭もぼんやりとしている。
一体、何があったのか。
幸村は覚醒しきらぬ頭で周囲を見渡す。
だが、それは叶わなかった。視界は塞がれていた。
黒い、何か、布の様な物で自分の両目を塞いでいる。
「…な…、」
一体、何故!?むしろ何があったのか?自分の身に。
両目を塞ぐ布を取ろうにも、手は後ろ手に拘束されているらしく、体を捩ったり捻ったりする程度で解ける物では無いようだ。
足にも力を入れてみるが、やはり無駄だった。どうやら太股と足首を繋ぐように縛られるように、立ち膝で木に固定してあるようだった。
何で、こんな事に?
幸村は焦る思いで、しかし手繰るように記憶を蘇らせた。
「―…さ…」
そうだ。
最後に見たのは。


《コイツら、旦那を狙ってる!》


「佐助……!」
そうだ、佐助。佐助はどうなったんだ?!それに自分を狙ったと云う手練の者達。
幸村は何故自分が狙われたか分からない。
理由が無い。
「な…ぜ…?」
幸村は当惑する。
だって、あれは。
自分を狙った者達は、紛れもない黒脛巾。


「――何故でござるか…政宗殿」
見えるはずの無い幸村が呟いた先に、音も無く政宗が何時の間にか立っていた。
政宗は頷くと、脇に控えた脛巾が幸村に猿轡を咬ませる。
「…ぐ…?!!」
咬まされた猿轡を解こうにもやはりそれは叶わず、幸村は奥歯を噛み締めた。

脛巾が《仕事》を終えると、音も無くその場を去る。
口も、手肢も封じられた幸村に政宗はゆっくりと近づく。音も無く、ゆっくりと。
幸村の前に跪けば何処か遠い目をしながら、政宗は猿轡の上から口付けた。
「――ッ!?」
突然の、口元を這うぬらりとした暖かさに幸村は驚いた。
しかし、すぐにそれは『舌』だと分かった。何者かが自分に口付けていると。
猿轡をされているから舌は口中に侵入する事は無い。
が、舌はゆるりと唇を這い、はむようにして愛撫を続ける。
「…ふっ」
顎から喉筋に掛けて唾液が伝い落ちていくのが分かった。
幸村は顔を反らして逃げようとするが、その者は、舌は幸村を追う様に逃さぬ様に、責める。

一体、誰だ。

唇を舐められているだけなのに、こんなにも気分が良い。まるで上等な酒に酔っているようだ。
商売女なのだろうか。かすかに甘い薫りがする。
白粉の様な匂いではない。
上等な香の匂いだ。

一体、誰なんだ。

甘い匂いと痺れるような口付け。
「っ…ふ…」
夢中に、なる。
夢中にならされていた。
いつのまにか。



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ