モノオキ
□春嵐*
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―――それは、夢の中だと容易に知れた。
何時の間に寝入ってしまったんだろうか。
そんな事すら考える余裕がある。
風呂上がり、素肌に心地好い夕着を羽織り、それから多分、記憶が無い。
もし、自分が居るとすれば多分書室で、そこで寝入っているのだろう。
やりかけの仕事があって、それをほったらかして来たような……気がする。
文机に座して寝入ってしまっているのなら、起きたら後悔するかもしれない。
湯冷めして寒いかもしれないし、第一、自分の腕を枕に寝ているのなら起きた時痛くて仕様がないのではないのか。
起きた方がいいかな。――尤も、目覚めてしまえばそんな風に思った事すら忘れてしまってんだろうが。
しかし。
夢が、夢の中にいる自分が、更に別の夢に意識が拐われようとして、目を覚ますのを止めた。
夢が次の幕として用意したのは、昔懐かしい風景。
夢を夢だと認識する表層の意識は更なる夢に被われ、薄れていく。
次第に自分がその更なる夢の意識へと、同調してゆく。
完全に同調すれば、幕は開けた。
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