モノオキ

□春嵐*
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「…政宗様、もうそのへんで止めた方が宜しいかと。」
「まだだ!まだ平気だ!ホラ小十郎、オマエも飲め」
元服を終え、実質伊達の頭領になった自分は毎日が忙しなかった。膨大な政務、目まぐるしい戦略算盤、接待とやる事はたくさんあった。
そんな中、唯一『頭領である政宗』から『政宗』である一個人として息が出来るのが、竜の右目である片倉小十郎といる時だった。
「全く、悪酔いするのならこちらにして欲しいものですね。」
盃を取り上げられ、口付けられる。


肌を重ねるのがもう幾夜目かなんて、そんな事は覚えてない。
最初の夜だって、それは本当に夜なのか、それとも朝だったのか昼だったのか、それすらも。
ただ分かるのは、ナンテ危うい、それゆえにナンテ強烈で甘美な誘惑なんだろうと、悔しくもふしだらにも、そう思った事だ。
極自然にそうなってしまったので、文句の付けようが無いが、受け身の立場でありながら、尚且つこの男に溺れようものなら。
この行為に終わりが来た時、泣くのは自分なんだろうと分かっていた。
.
武骨な指が着物の合わせを開いて、素肌に滑り込む度に、何時だって初めてそうされるみたいな震えが起こる。
ぞくり、として、体中に染み渡る奇妙な余韻。
「ん…っ」
どんなに押し殺そうとしてもどうにもならない無意識の声。
自分の耳に入れたくなくて、唇を噛み締めてみても、口付けられればいとも容易く解かれる。
唇の膨らみを執拗に舌で確かめられ、息が上がる。

なんて、呆気なく堕ちるのか―――。

胸元に口付けられれば、鼓動の速さが伝わってしまってイヤだった。
ぎゅう、ときつく目を瞑って必死に頑張ってみたところで、全く役に立たない。
完全に弱みを辿られて溢るる吐息混じりの声など、ひどく情けないものだ。

「…何故、いつも声を閉ざすのです」
「イヤだからだ、よ」
「何故?」
「――ヤなもんはい、や、だ!」
それでなくとも息が上がってんだ。喋らせるな。

その指が、その唇が悪い。
その舌が、その眼差しが、自分よりも大きなその体躯が。
―この身体を作り替えてしまう。

「相変わらず強情な方だ」
「――何とでも、言え」
そんな風に挑発してしまえば、もっと悪乗りをしてしまう事は明白なのだが。
もしかしたら、それを望んでいるのだろうか。
熱に浮かされながら考える事は取り留めもない。
脚を割り開かれ、浅ましくも喉が鳴る。

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