モノオキ
□アタタカキユメノハテ
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まるで。
まるで、救い出される様に夢から醒めた。
心臓が耳元で鳴っていた。
苦しくて、恐ろしくて、静かに、深く息を吐いた。
暗闇から視界が暗転し、転換していって暫くは、目覚めて此処が何処なのかも分からないまま、放心してしまい、ぼんやりと白い天井を見つめていた。
夢。
深い吐息を怖々と繰り返しながら。
――ゆっくりと、ゆっくりと思い返す。
夢を見ていた。
とても悲しい夢だった。
とても辛い夢だった。
悲しいのと、悔しいのと切ない、ぐちゃぐちゃに入り混じった嵐みたいな感情が、全身を隈無く支配していた。
背中を敷布に押しつけて、張りつくような姿勢のまま、指の先まで強張っている。さっきまで視ていた夢の断片が、脳に目まぐるしく浮かんでは消えて、凍った体を通り過ぎてゆく。
それだけでも、ひどく悲しい。
夢は逃げてゆく。
「――――あ…」
思わず口に付いて零れた声は、吐息のように擦れた。
不意に脳裏に浮かんだ場面が、体が覚醒するにつれて消えてしまいそうになったのだ。
それはまるで、水面に上る水泡のように。
夢はするりと逃げ始める。
いやだ。
何故だか強くそう思った。
悲しくて、怖い夢だったのに。
思い出さなければ。
本当に覚醒する前に、噛み締めるようにしても、全てを思い出しておかなければ。
何故かそう思った。
それはもう、一種の危機感の様に。
今、逃してしまえばきっと、混沌とした澱みとなって自分でも知らない胸の奥深くに閉じ込めてしまうことだろう。
そんな風に、闇に沈んでいった夢の欠片は決して消える事もなく、知らずに何時までも記憶の底に残って、いつか必ず暗がりから蘇ってくる。
どろりとした澱みは、大きな固まりになって、何かのきっかけで一気に噴き出すのだ。
厭な夢を胸の底に沈めてしまうなんて、爆弾を抱えて生きるようなものだ。
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