モノオキ
□任務:足止め*
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場所は越後と奥州の国境。
影が走ると同時に、枝葉が折れ、金属が弾き合う音がする。
影は、ふたつ。
影は、高い木々の間を素早く移動しながら、お互いの距離を取る様に移動しあった。
そして、一番高い木に辿り着いた時――。
互いに、睨み合う。
「謙信様に手出しはさせない!!」
金色の髪を揺らしながら、女は目の前の男を威嚇するように言い放つ。
「だーかーらぁ…、俺は上杉に来たんじゃないってば…。」
橙色の髪の男は、女を嗜めるように言ったが、女の激昂は治まる気はなかった。「嘘だ!武田と上杉は今、雌雄を決しなければいけない時だ!隙あらば、謙信様を亡き者にしようという魂胆だろう!」
女は、自前の円舞輪を男に向かって投げ付ける。
「うわっ!」
紙一重で避けるが、腰の道具袋をズタズタに引き裂かれ、中身が落ちた。
「ちょっとー!女の子がそんなの振り回したら物騒でしょー!」
姿を隠しながら、女に向かって叫んだ。
「何処だ!出てこい!」
『んな事言われてもね…』
出ていったって、話は聞かないくせに。
「あのねぇ!今回は、本当に上杉に関係ないの!!だ・か・ら!おたくの大将には絶対害はないの!」
ザワザワザワ…
木々の中に、声だけが吸い込まれていく。
ザワザワザワザワ…。
「…くっ…!謙信様に!上杉に入ったら容赦はしないからな!!」
女は、男に向かって言い放つと、金色の髪をなびかせながら、風の様にその場を立ち去っていった。
「…やれやれ。」
女の気配が完全に消えたのを確かめると、木の上から地面へと足を落とす。
橙色の髪の男―、佐助は溜息をついた。
「―なぁんで、ああ、食い付いてくるかねぇ…」
カチャリ。
先刻の戦いで散らばった道具を拾い上げる。
『俺様に気が合ったりして。―――ナァんて。』
少しだけ、頬を緩めてみたが
「そんなワケナイカ」
忍具を拾いながら考えを改める。
手裏剣と共に小さな薬包紙を拾う。
「大切な道具。」
佐助は身仕度を整えると、目的の地へと急いだ。
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