モノオキ

□もりのうた
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とても、寂しい風景だった。
けれども、寂しい中にも穏やかな優しさと、暖かな大気が此処にはあった。
踏む土には適度な湿気があり、それでも乾燥したそれは、歩くたびにその存在を微かな音で知らしめてくる。
その小さな音に耳を澄ませながらこうして歩くのが、いつからか自分はとても好きになっていた。



吐く息は白い。
痛い程の寒さと、早春の朝。
特に、早朝ならではの清浄さ――と、でも云うのだろうか。
ピンと張り詰めた時間の中に見え隠れする、普段では見ることの出来ない空白が、心を真っ白くさせる。

政宗は、出来るかぎりのゆったりとした歩調で進みながら、その空間を満たす冷たい空気を思い切り吸い込んだ。
濃い樹木の香りと大気の冷たさに、肺が思わず悲鳴を上げそうになる。
微かにむせ返りながら、政宗は着ていた厚手の羽織の前をこれ以上はないと云うくらいに掻き合わせて、ぴたりと歩みを止めた。



その途端に。
静寂が、自己主張する。




――存在は、ここにあると

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