モノオキ

□焦*
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見返す表情はいつも平静を保てていたと、自分では思っている。
熱い吐息に頬を紅潮させていても、瞳は決してそれに溺れていないと。
ぞくり、と肌が粟立つ程の快楽を得ていても、不埒に目覚めそうになる体を、在らぬ言葉を口走ってしまいそうな唇を、その度に必死に宥めていた。
意識をさらわれまいとしていた。

今から考えれば可笑しな事だ。
何をそんなに強がっていたのか?
体を重ねる度に、幸村の技術は上達していった。
それこそ最初は政宗が教えたが、乾いた土が水を得るかの如く、知識と技術をモノにしていった。
そして今では、政宗を焦らし弄ぶ余裕ですら見せる始末。
それが策略なのか、天然なのかは知らないが。



「ふ…ぅ」
幸村の指先は、首筋から無骨な鎖骨の線を辿って、開けた胸元へ。
時折、爪を立てて滑るように政宗の肌を自在に走った。
その都度、武士の指である事を示すようなささくれや、肉刺がまるで暗闇に走る閃光の様に、意地悪く熱を煽っていった。

――いつもは。
―いつもはこんなじゃない
渦巻くような熱の頭で、政宗はぼんやりと思った。

掻き抱くように、激しく、この身がその熱さで焼かれてしまうんではないかと錯覚する。
それなのに。
今宵は何だか焦れったくて。
「―もぅ…何なんだよ…さっきから」
「いえ…?他意はござらん」
尚も指は政宗の肌を蹂躙する。
悲しい程に息は上がってしまっている。政宗は言い辛そうに言葉を濁した。
「どうでもいいんだけどよ」
「はて?」
幸村はその先を知っていて、口の端を上げる様にして笑みを浮かべて、言葉の先を施した。
「何でござろうか」
「あのなァ…結構辛いんだけどよ‥」
吹き出しそうになる笑いを堪えて、更に悪戯をしようと差し伸べる幸村の指先を乱暴に振り払う。
「Stop it!そーゆーのも無しだ!」
ベチ、と叩かれた指先とは別に、幸村のもう片方の手は、政宗の追撃をかわしながら頬に這わせてきた。
「……っ」
頬から撫で上げられ、柔らかく耳裏に指を這わせられる。
指は悪戯に寄り道をする。
知り尽くしたこの体を。

目を細め幸村はそれを見ている。そんな幸村の表情に気付いて、政宗は気怠げに笑い返し、頼りなげな力でその頬を叩いた。



それは甘い甘い恋人の様な戯れ―――。
「…いっつ…」
不意に指を入れられ、政宗は身を震わせた。
綺麗に伸びた背筋から、顎先にかけて月光が蒼く照らす。
不安定な腕が幸村の一束の髪を縋るように掴んだ。
「くぅ…あっ…あ」
散々弄ばれながら、一度も解放を許されていない政宗の体は正直な程反応した。
先を知って慣れてしまった政宗の体は、どうしようもないくらいに餓えて、泣いて、幸村を誘っていた。
声が、腰が、上擦って。

先に溢れた雫を掬い、指へ擦り付け誘い込もうとする後口へ、幸村は更に指先でこじ開けようとする。
「っ…痛…!」
今だ慣れないその感覚に、小さく政宗が悲鳴を上げれば。
「痛い?政宗殿、そんな訳ないでござろう。指が一本増えたところで」
「くっ…」
指先で充分に解してゆく内に、幸村の指は徐々に政宗の体内へと侵入させていく。
肩で大きく息をつき、さざ波の様に押し寄せる痛みと快楽に政宗は眉を寄せた。
「…っはぁ…ああっ」
声が鼻に掛かり甘くなる。幸村が指を動かす度、背が浮き、意識さえも飛びそうになる。
視線がかち合えば、示し合わせたかの様にどちらかともなく、唇を合わせた。
唇から溢れる唾液を拭う事も忘れて、貪る様に舌を絡ませた。耳に触る粘着質な水音をわざと立てる様にして、舌先を絡め合う。
口腔をまさぐられる。



気が狂うような吐息は入り交じって、月光の降り注ぐ部屋の蒼い静寂を淫らに裂いていく。
浅ましいくらいに、求めている。
灼け付くくらいに、喉をひりつかせて――。


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