モノオキ

□*聲(900hit御礼文)/声
2ページ/2ページ

竜の事が気に掛かる。
どうしてだろうか。


たった一度の情事で、心を竜に喰われてしまったのだろうか。

――馬鹿らしい。
忍びは心なんか無い筈なのに。
第一、あの人は旦那のもんじゃないか。
一体、何を考えてるんだ。
――――でも。

願わくば。

もう一度、あの竜の体をこの腕に―――。
そして。
俺の名を呼んでほしい。
あの声で。

「おう、どうした飼い犬」
佐助の目の前にいる竜は、突然の来訪に別段驚いた様子もなく、煙管を蒸かしながら言った。
「…いい加減名前くらい覚えてくんないかなぁ…」
「Ahー?幸村の飼い犬だからいいじゃねぇか。」

『旦那の事は《幸村》って呼ぶくせに…。』

そうなのだ。
甲斐と奥州が同盟を組み、何時の間にか自分の上司がこの若き城主と恋仲になっていた。
竜は、《真田》から《幸村》と上司を呼ぶに対し、自分は今だに竜の中では《幸村の飼い犬》だ。
何度も言ったが、無駄だった。
ま、所詮ハカナイ夢なのだ。
竜は、幸村しか見ていないから。

「んで?何か用が合ったんだろ?」
煙をぷかりと、吐きながら竜は言う。
「今回は、あんな事はゴメンだぜぇ?」
猫の様に目を細めて、笑った。

間違いと、好奇心が引き起こしたあの夜――。

「そんな事しないよ」
佐助も笑いながら返す。


『本当は、したいけど。』
笑顔の裏にはドス黒い感情あぁ、やんなっちゃう。

考えるな、俺。
ほら、お仕事、お仕事!
頭を切り替えて、佐助は本題に入ろうとした時、微かな違和感を感じた。
(…あれ?)
何時もなら二人一緒なのに、何故竜は一人でいるのだろうか?
それとも、たまたま一人なだけなのか?
「いっやねぇ。お暇中悪いんだけどさぁ、旦那を連れて帰らなきゃ行けないんだよ」
「へーえ。」      にやにやと笑いながら、竜は俺を見る。
(なんだよ…。その顔は)
まるで悪戯を企んでいる幼子の様――――。
「だから、旦那呼んでほしいんだけど」      「幸村なら居ないぜ」
「嘘」
俺は即答した。
「嘘言わないでよ。旦那が奥州行くったら、竜の旦那のトコしか無いんだから。困らせないでさぁ、旦那呼んでくんない?」
「宛先がバレてちゃあ、隠し様がねえな」
竜は笑いながら、煙管を煙草盆に置いて立ち上がり、自室の障子を開けると旦那が寝ていた。
竜は旦那の傍らに座すと、旦那の体を揺らして起こし始めた。
「Hey!!幸村Wake up!」「ん……〜」
揺り起こせば、旦那は竜の腰にしがみ付くように擦り寄っていった。
「政宗どのぉ…」


胸の奥が、少しだけ痛んだ。
「オイ、寝呆けんなよ。犬が来てんぜ。お前んちのBossが呼んでるってよ」
「何ですと!?」
旦那は竜の言葉を聞いて飛び起きた。
つーか、あんたその異国語分かったんか……。

頭に物凄い寝癖を付けたままの旦那が俺を見つけるやいなや、
「佐助ぇぇぇぇ!お館方様に何かあったのか!?」
「ちょっ…そんなデカイ声出さなくても聞こえるよ…。別に、何もないよ。お館方様が用があるから呼んでこいって言ったからさ。さ、戻るよ」
そう言うと「むぅ」と、困った顔をして、旦那は竜へ振り返った。
「政宗殿!聞いての通りでござる!申し訳御座らん」
竜は煙管を再び蒸かしながら、
「別に構わねぇよ。また来るんだろ?」
「無論でござる!」

あーあ…。何この二人…。
いい加減嫌んなっちゃうよ。こんな旦那みんのも。

笑顔で旦那を呼ぶ竜を見るのも。

「支度をしてくる」と言って旦那が居なくなると、俺は再び竜と二人きりになった。
竜は旦那の走り去った方を見ながら
「あいつぁ、本当にお館方様が好きだなぁ」
目を細めて、竜は呟いた。
「まぁね。でも、竜の旦那の事も好きだから」
「はっは。言うねぇ」
竜は豪快に笑った。
「《好き》と《好き》の違いだな」
「え?」
「《Like》と《Love》さ」
竜が異国の言葉を紡ぐ。
その言葉が引っ掛かった。
「それってさ…」
「佐助!待たせたな!さぁ、行くぞ!!」

――……ハイハイ。
「そんじゃ、行きますかね。んじゃ、竜の旦那。失礼しました」
「あぁ、また来いよ。」
竜がにやりとわらう。


  「佐助」


マッタク、竜は人の心を喰うのが上手い。
無いはずの心まで
たった一言でもってイカレちまった。



幸村Verの《聲》と合わせて楽しんで頂ければ有り難いです!
2006.12.31 月凪海

.
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ