モノオキ

□柚子湯(800hit御礼文)
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「Hey、幸村。上がったぜ」
着流しにこざっぱりした格好で米沢城当主は、自室で待っていた恋人―、真田幸村に話し掛けた。
「いやはや、奥州は凄い雪でございますなぁ」
ひとしきり感嘆した声で、幸村は言う。
「こんな時に来るのがabsurdってもんだぜ。ま、甲斐にはこんなに降んねぇだろうから、たっぷりと堪能していきな。」
「……うう」
笑いながら言うと、幸村は困った様に苦笑した。



―――幸村はこの師走に、しかも年の瀬が迫った頃に奥州に来た。
今年は雪が少なく、幸村が来た時はまだ土が見えていた。

―――――――が。

一夜明ければ別世界。
恐ろしい程の雪が、奥州全土を包んだ。
「…これでは、帰れませぬな…」
顔面蒼白。あの時の顔は忘れない。


パチン、と火鉢の炭がはぜた。
「こうやって年の瀬を政宗殿と過ごせるのは嬉しいでござるな」
あぁ、確かに。
幸村が此処に居るだけで俺は毎日が楽しかった。
俺は、火鉢で暖を取る幸村の傍に座り、微かに頷いた。

俺、顔赤くないか?
感付かれたくない為に、幸村の顔を見ない様に下を向いていたら、幸村が擦り寄ってきた。
「な…なんだよ」
「いえ、政宗殿から良い香がするもので」
犬みたいに鼻を擦り寄せ、どんどん俺に近づいてくる
こいつ、時々素でこーゆー事しやがる!
「きょ、今日は冬至だろ!柚子湯だからきっとその匂いだろ!」
「ああ」
幸村の息が耳に掛かって、俺は体を竦めた。
「納得したなら離れろ!んで風呂入ってこい!」
「そうですな…。しかし」
幸村は尚も擦り寄って来て、俺は逃げる態勢を塞がれた。
「政宗殿の香を堪能したい」
「あっ」
首筋に、口付けられた。
動脈に舌を這わせ舐め上げ、耳の裏側に辿り着き、耳たぶを甘噛みされる。
「ふ…あっ…」
甘い痺れが走る。幸村が俺の髪に鼻を埋めた。
「あぁ、政宗殿の匂いだ」
髪がくすぐったかった。
「やめろよ…離せ…」
体を捩らせて逃げようとしたけど、無理だった。
幸村の手が膝の上に置かれたからだ。
冷たい手が俺の体を硬直させる。その手だけで、俺の体は熱くなり、心臓は早鐘を打つ。
「…嫌で御座る…」

…ああ、もう。
そんな風に言うな。

勃っちまうだろ。
俺はその、声に。
睦事の時に発する低く滑らかな声に弱いんだ。

「…政宗殿」
項に舌を滑らせて、囁かれた。
ダメだ。カンペキにイッちまう。
頭の芯がぼうっとした途端、幸村が離れた。
「えっ?」
最後まで期待していた俺を幸村は放り出し、見れば部屋の隅にあった風呂道具をいじり始めていた。


「お…おい。」
このままか?ちょっと待ってくれ!
思わず幸村に声を掛ければ、極上の笑顔で。

「続きは某が風呂から上がって来てからでござる」
と、言い放った。
「なっ…!」
何時の間にそんな駆け引きを覚えたのか。

「それでは」
一言残して幸村は部屋から出ていった。



―ちきしょう。真田幸村
風邪引くまでねだってやるからな。
覚悟しておけよ。





800Hit&日本行事文です。この時代にクリスマス無かったら〜って考えてたら、家が柚子湯だったもんで《コレだ!》って。ヒトと違う事するのって難しいっすね…!この続きは、機会があったら描きたいですね。(笑)
800Hit有難うゴザイマシタ!(平伏)
2006.12.24 月凪海

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