モノオキ

□名前(700hit御礼文)
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『急ぎの用が入った。すぐに終わらすから待っててくれ』

休暇を利用して、奥州に来た幸村だが政宗とすれ違いになってしまった。
『待っててくれ』と、言われ帰る訳もいかないので、幸村は政宗の私室で待つことにした。


―――チリン。
「?」
何か、金属音。その音はどうやら鈴の様で、だんだん近づいてきた。
部屋の前まで音は近づくとピタリと、止まりカリカリと引っ掻く音がする。
つい、と障子を開けてみれば。
「ぅおっ!」
その物は、部屋の中に入り込んで《ニャア》と鳴いた。

「…猫、でござるか。」
はて、この城に猫など居たのだろうか。
見た処、鈴を付けているから飼い猫なのだろう。
手を差し伸べれば、猫は顔を近付けて幸村の指を舐めた。
「御主は、政宗殿の猫か…?」
猫に問い掛けるも、ただ《ニャア》と鳴き、幸村の指にじゃれるだけだった。


――あぁ。可愛いなぁ。
まるで、政宗殿の様だ。

手の中で、じゃれる猫を見ながら幸村は微笑んだ。


――ドタドタ‥。
スパンと、勢い良く障子が開き当主が現われた。
「Sorry!思いの外遅くなった…。なんだ源二郎と遊んでたのか」

――――ハイ?
幸村は笑顔のまま、固まった。
そんな幸村をよそに、政宗は幸村の手の中から猫を取り上げ、自分の手の中へ移した。猫は、安心した様に喉を鳴らしながら政宗の手に収まった。

幸村は、政宗に恐々と質問する。
「…政宗殿、その猫の名は…」
「Yes!源二郎だ。可愛いだろ、生まれてまだ三ヵ月だ。」
「ええ、大変可愛らしい…、違うで御座る。何故この猫に《源二郎》とお付けになったので!?」
幸村は政宗に詰め寄った。

『どうせなら《幸村》と―――――。』


そのほうが。
いい。

そう聞けば、政宗は慈しむ目で猫を見ながら言った。
「こいつはお前の代わりだから、《源二郎》でいいんだ」
「…代わり?」
「Yes、代わりだ。お前が奥州に居ない時は、こいつが俺の相手だ。」
政宗の手の中の猫は、指を甘噛みしている。


胸が、ずきと痛んだ。

自分が居ないのを、政宗は少なからず《淋しい》と思ってくれたのだろうか。
自分だけが、淋しいわけじゃ無かったのか。

「さすれば、《幸村》と名付けて下さればよろしいのに」
そう言って、自分も猫へちょっかいを出し始める。
「バッカだなぁ。」
政宗は呆れながら言った。「幸村って呼ぶのは、お前だけでいいんだよ」
幸村は顔を上げて政宗を見た。
「だってさ、俺の名前を呼んでくれて、俺を抱き締めてくれる《幸村》はお前しかいないだろ?」
政宗は目を細めて言う。
「こいつは俺の話を聞くけど、抱き締めてはくれないし、名前も呼んでくれないからな。」

手の中の猫が、鳴いた。
「だから、幸村はお前だけでいいんだ」
『幸村って呼びたいのも』
そう、小さく呟いて政宗は幸村に口付けた。



ああ。
なんて愛しい人だ。


「…政宗殿」
口付けを深いものにして、幸村は政宗を抱き締めた。



猫はそんな二人を見兼ねたかのように、部屋から出てった。






700Hitありがとうございました。有りがちなネタですが、書けてよかったです。
政宗様にとっては幸村は彼一人。それ以外は全て代わりと云ったお話。

それでは、読んで下さいまして有難うございました!(多謝!!)
2006.12.24 月凪海

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