頂物・捧物

□FireWorks(自縄自縛/春峰様より)
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子供のようにはしゃぎ回った夜店から遠ざかり、昼間のように煌々と明かりの灯った祭事場からも離れ、暗がりに二人。
見上げた夜空に、ぱっ、と闇夜に大輪の花が開く。
少し遅れて、どーーーーーーん、と遠雷にも似た音。
光の粒はぱちぱち音を立て、やがて溶けて星空に帰る。

遠くでわぁっと歓声が上がり、ごく近くでひゅう、と口笛の音がした。
「Coolじゃねぇか。」
気に入ってくれている。
幸村は思わず上擦りそうな声を抑え、平静を装って言った。
「普段はもっと大人しい祭りなのだが、今年は奮発してみたのでござる。」
……だって、大好きな貴方が来てくださるというものだから。
言いかけた言葉を飲み込んで、じっと政宗の様子を伺った。

しかし、政宗は感心した表情で夜空を見上げるばかり。
「Hum、なかなかやるねぇ上田城主。」

「………………それだけでござろうか。」
「Ah? せっかく素直に誉めてやってんのになんか不満か?」
「…………が…」

どどーーーーーーーーん。

再び上がった花火が、煮え切らない声を掻き消した。
「聞こえねぇ!」
「政宗殿がッ!!」
耳元で叫ばれ、叫び返す。
「上田まで来てくださると言うからっ…喜んでもらおうと………」
響く自分の声を自分の耳で聞きながら、気温のせいだけでない熱で顔が火照るのがわかった。
張り上げた声もだんだん細って、終いには火の粉がぱらぱら鳴る音に呑まれてしまう。

「城主も参加してpartyを派手にしてやろう、ってことかと思ってたら……」
ぱちぱちと隻眼を瞬かせた政宗が、くっ、と小さく吹き出した。
「そんな可愛らしい魂胆があったのかよ。」
「…………笑うなど、酷いでござる。」
「可愛いってのも誉め言葉だぜ?」

広い手の平が、くしゃくしゃと髪をかき混ぜる。
憮然として見上げた方向には、夜空を彩る炎の華。
火花の照り返しを受け、穏やかに微笑む愛しの君。

幸せな光景だと思う。
しかし、こちらの心内を察して、赤くなって口篭るのは政宗殿の方ではなかったのか。
……などと、遣る方ない思いもあるのだけれど。


「終わったかな。」
「そのようでござる。」
祭りの後。
炎塵が星を描いた空にほんのり、火薬が香る雲がたなびく。
不意に、先を歩く政宗がこちらを向いた。
「なぁ、火ィ貸せや。」
「? 煙草なら帰ってからになされよ。」
「違ぇよ、コレ。」
袂から取り出されたのは、紙縒りのような線香花火。
「も少し遊んで帰ろうぜ。」
「そういうことなら。」



夜空いっぱいに咲いた絢爛豪華な花も嬉しかった。
でもそれは、誰もが知っている、凛々しい若武者の姿。
転じて今、僅かな手の動きにさえ揺らめく小さな炎。
自分の反応に一喜一憂する、二人だけの時の幸村そのもののような手花火に、幸村の手で火が点る。
それは幸村が政宗のために点し、政宗だけに見せる炎。

光の松葉に目を輝かせ、落ちそうに熟した火の玉を熱心に見つめる幸村は、まだ知らなかった。
己を見つめる政宗の眦が、花火の照り返し以上の色を帯びていたことを。
 

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