頂物・捧物

□Kiss me
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別に、したくないわけじゃない。というかその気で夜這いをかけたのだけれど。
しかし幸村は複雑な気分の政宗の意図に気付く様子もなく、それどころか、向けられた形の良い尻を着衣の上から撫で上げてきた。
「それとも、着たままされるのがお望みか?」
「…っかやろ! テメエ最悪だこの破廉恥幸村!!」
弾かれたように跳ね起きて繰り出す拳など予想の範疇だったらしく、軽くいなされた。

それどころか、その勢いを利用して床に組み臥せられる。
両手を以って両手を封じ、腹の上に馬乗りになって身体を押さえ込んだ幸村は真摯な表情で問うてきた。
「ならば、何が足りないのか、言ってくだされ。」
「んなこと、自分で考えろ!」
元々、恥ずかし過ぎて口に出せたもんじゃない。
その上動きを封じられ追い詰められて、ますます強情になった政宗はそれっきり黙り込んでしまった。
血が滲みそうなほど唇を噛んで、恨めしげに睨み上げる。

すると、両の手を戒める万力のような力は緩めぬまま、痛ましげにこちらを見つめる瞳と目が合う。
政宗があまりに場違いな色合いにうろたえたその刹那、幸村は背を屈めて、引き結ばれた唇に自分のそれをそっと重ねた。
ヒリヒリ痛む、噛み締めた痕を舌がそっと撫でていく。

…途端、全力で押さえかかっていた腕の力がふっと抜け、バランスを崩した幸村は重力と勢いに従って政宗の上にべしゃりと倒れ込んでしまった。
「っ、たた…急に危のうござる!」
慌ててどいたが、返事は、ない。
「……って、政宗殿?」
今度は枕のみならず掛布までも丸めて抱え込んだ政宗の、洗いざらした髪から覗く耳がほんのり赤い。
「まさむねどの?」
なんとなく、理解した幸村はその耳にも唇を寄せた。
「こっちを向いてくだされ。」
次はしっとりと水気の残る後ろ髪を撫でつけながら、引き寄せた頬にそっと触れるだけの接吻を捧げた。
ちゅ、ちゅ、と啄ばむように繰り返される口付けに、政宗は擽ったそうに目を細めながら向き直った。
ようやくこちらを向いた政宗の額に、鼻先に、唇に、注ぐ雨のように接吻を降らせる。

そうしてもう一度手を伸ばし、胸元を緩める。
肩を肌蹴る。
背が露わになる。
その間も政宗は薄く笑みを浮かべたまま、為すがままに任せていた。

「全く政宗殿は。大胆なのか初心なのか……」
「誰が初心だ、手順ってもんがあるってだけの話だろ。」
そう言って噛み付くように口付けてきた政宗の手で、今度は幸村の腰帯がしゅるりと解かれた。
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