頂物・捧物

□Kiss me
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そろりと襖を引いた先、真っ暗な客間に、丁寧に設えられた夜具が一組。
足音を忍ばせて近寄った政宗が掛布をゆっくりと持ち上げると、目当ての人物が一目でソレとわかる狸寝入りで待ち受けていた。

ぎゅっと目を閉じ、緊張のあまり細かく震える幸村に苦笑しながら、政宗はその鼻先を指でそっと撫でた。
それだけでぴくんと瞼が引き攣り、全身の強張りが酷くなる。
……面白い。
打ち捨てられたように広がる尾を掴み上げ、耳の辺りでふわふわ揺らす。
一瞬喉がくっと鳴って、息を詰めた幸村の顔が見る間に紅潮していった。
尚もこしょこしょと毛先を操り、耳の裏から首筋までの軌跡を辿る。
更にぶるぶると震えだす肩先に顔を寄せ、耳朶に噛み付きそうな程近寄って、ふうっと息を吹きかけた。
「……っっっぷ、はーっ!!」
とうとう我慢の限界に達した幸村が跳ね起き、ぜえぜえと荒い息を吐く。
恨めしげに見上げる瞳に、政宗は勝ち誇った笑みを返してやった。
「Good morning真田幸村、どうだ寝覚めは!」
「おはようございます……」
「まだ、ちっとばかし早いけどな。」

部屋は真っ暗。早朝というよりも、夜中というほうが正確だ。
「だったら……」
精一杯不機嫌な表情を作った幸村は、言葉の続きを大袈裟な欠伸で区切る。
「こんな強引に起こさずとも良いではないか。」
「いいじゃねえか寝てなんかなかっただろ。」
幸村の不機嫌を一蹴した政宗がするりと隣に潜り込む。
肌触りのよい浴衣越しに寄り添った体はほかほかと温かい。
襟足からは、ほのかに立ち上る湯の香り。
誘われるように袷に手が掛かり、慌てた政宗が制止の声を上げた。

「Wait! がっつくな、おあずけだ馬鹿!」
荒い語気に、幸村の眉がぴくりと跳ね上がる。
「こんな夜更けに、そんな格好で訪ねて来ておいて、何もなしに済むとでも?」
肌蹴ようとする手と閉じ合わそうとする手が浴衣を掴んで鬩ぎ合い、双方一歩も引かない勢いで睨み合う。
「思ってねえ…けどその前にやることあんだろうが!」
「は?」
意外な言葉に力の抜けた幸村の手を振り払い、ぴったりと襟を閉じた政宗はごろんと背を向けた。

毛先から雫が撥ねる。
湯上り、洗い髪、浴衣一枚のしどけない姿。
時は深夜で場所は閨。
ぱっと赤くなった幸村が苦笑を浮かべて進言する。
「その前も何も……その、脱がさねば。」
そんな幸村に答えもせず、政宗は枕を抱えて丸まった。
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