頂物・捧物

□らぶれたーふろむ上田城
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『燃ゆる我が心とは裏腹に、本日は思わしくない天候でござった。
 折角の休日に表に出ることも叶わず、ただひたすらに、早苗が植えわたされた田に響く雨蛙の音を聞いておりました。
 この広い空の果て、遠い北の地でも同じ音が聞こえておるのでしょうか。
 時に、降雨は竜の涙であると言う地もあるようでござる。
 この初夏らしからぬ冷たい雨が政宗殿の涙であったらと思うと、某は―――』

―――ぐしゃ。 と書きかけた文を握り潰し、丸めてぽいと投げ棄てる。
倒れ込むまま、まっさらな紙の上にごん、とぶつけた額は、痛みよりも先に無機物の冷たさを拾った。
そしてそれも、己の熱でじわりじわりと温くなる。
思いの丈を言葉にしたためることが、これほど難しくまた気恥ずかしいものであるとは。


『ほんの一行でいい、今度はアンタの言葉で綴った文を寄越してこいよ。』

「なかなか、難儀な宿題でござる……」


「だッ、旦那! なァにしてんだよ、どうしちゃったんだよ!!」
「何って、文を書いておるに決まっておるだろう。」
「うっそ、意外の極み。っていうか俺様明後日から遠出なのよー? 雨で済むんならいいんだけど〜。」
「悪かったな意外の極みで。」
幸村は伏せていた文机から顔を上げ、佐助をぎッと睨み付けた。
そんな幸村の剣幕もどこ吹く風、佐助は冗談冗談と笑って手を振る。
柳に風の佐助をいつまでも威嚇したとて意味はない、幸村は憮然としつつも、まず主としての務めを果たそうとした。
「で、今度はどこまで行ってくるんだ。」
「奥州。」
「そうか……お、奥州!?」
「そ、だからお手紙なら引き受けるよ。」



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