頂物・捧物

□氷中花(自縄自縛/春峰様より)
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「Shit、寒ぃ……」
続く小春日和に油断していたら、突然の寒波。
昨日までは咲きかけた梅花を愛でながら日向ぼっこをする猫よろしくウトウトしていた縁側にも、今日は雪が吹きつけている。
梅の梢にも当然のように薄氷がかかり、春を告げる紅が氷漬けの姿を晒していた。
肩を縮こまらせ小さく震える政宗を膝の上に座らせるようにして、後ろから抱きかかえた幸村が苦笑を漏らす。
「寒いならば、そのように冷たい酒はおよしくだされ。」
指差した徳利は雪できりりと冷やされ、取り上げた杯も飛び上がりそうなほど冷たい。

綿の浴衣一枚に緩く帯を結んだだけの政宗は唇を尖らせ、氷女もかくやとばかりに冷えた指先で杯を取り返す。
「寒いんだけどよ、寒い日に温い所で冷たい酒、最高に贅沢じゃねえか。」

そうして常に他人より体温の高い幸村の胸に背を預けてくる。
誘うような仕草、他愛ない我侭や沈む体の重みさえも愛おしい。
息のかかるほど近くに寄せられた白い項に吸い付きたい衝動を堪えて掛布を羽織り直そうとすると、
かたりと杯を置いた政宗の腕が後ろに回り、ひやりとした指が首筋に絡んだ。
酒気を帯び潤んだ隻眼が肩越しにこちらを見上げ、湿された唇が愉しげに語る。
「それにどんなに冷たかろうが、アンタが熱くしてくれるんだろ?」

「も、勿論でござる。」
ぴくりと身じろいだ幸村が落ち着かなさげに目を逸らす。
そしておかしな様子に眉根を寄せた政宗の前で、凍てつかんばかりに冷え切った徳利を掴むとぎゅうっと手の中に閉じ込めた。
染み入るような冷たさに歯の根をかちかち言わせながらも、懸命に酒器を握り締める。

「……Stop、ちょっと待て。」
「何でござろう。」
「何やってんだ。」
「温めております。」
「………」

もたれかかる背がずるずるずると滑り落ちる。
慌てて引き上げようとするが、我が手の冷たさに触れるのを躊躇う幸村の目の前で、身を翻した政宗の白い手の平がぱちんと幸村の頬を押さえた。
「酒じゃねえ。」
火照る頬に宛がわれた冷たい手が、滑るようにその輪郭を辿る。
触れる指も、触れられた頬も、急激に混ざり合う熱でじいんと痺れるようだった。
「こっちだ、コレ、あっためろ。」


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