頂物・捧物

□春模様(相互記念)
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冠のような見てくれをした、小さな花。
紅赤と白で彩られた台から鮮やかな緑色の茎が伸びる。
器用に動く手の中でしなやかな繊維が編み合わされ、それらは瞬く間に可憐な輪を成した。
隣で真似ようと頑張る幸村の指先で瑞々しい茎がぱきりと折れる。
「……折れてしまった。」
「もっと優しく、丁寧に扱え。」
むう、と唸ってもう一度傍らの花を摘む幸村の頭に花冠を投げて笑う。
田畑の視察に、と出てきたものの、片手間に編んだ花輪を見た幸村が「某も作りとうござる!」と頑張り始めて小一時間。
首から二つ、頭に一つ、傍らにもいくつかの花飾り。
赤い衣の幸村は、衣よりも幾分柔らかな赤に埋もれて今も悪戦苦闘している。
「いつきと同じだな。」
若草色の茎を真剣に睨みつけていた瞳が上げられた。
「いつき殿と?」
「Yes、うっかり力が入りすぎるところが。」
ぽきりと折れた黄緑色を指差して笑った政宗は、懲りずにまた草を千切る手を見ながら草原に寝転がった。
頬の側で鮮やかな緑と、青みがかった紅色が揺れる。
見上げた天を黄色い蝶が横切り、その更に上を白い雲が流れていく。
夏ほど近くもなく、秋ほど高くもなく、冬ほど重くもない空。
春色の景色。


ぼんやりと、雪ん子だというのに寄る春に一層元気さを増した子供を思い返す。
「……女らしい遊びにかまける暇がなかったのかもな。」
小さな体よりも重そうな槌を振り回し、大人たちを叱咤激励しながら自分も必死で前を向く子供。
「可哀想なんて言うのは筋違いだが、何だか、な。」
思いがけなく沈んだ調子になってしまった声を誤魔化すように、噛み殺した欠伸が鼻に抜けて、はふ、と間抜けな音が漏れる。
腕をぐーっと伸ばすと、閉じた瞼の裏にも黄色い太陽が映った。
のどかに、ゆっくりと流れる時間に身を任せるかのようにその光景に見入る。


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