頂物・捧物

□Call my nane!
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「ちっがああああああああああう!!!」
「なっ、いきなり何なんだ!!」
「よりにもよってこの場でソレでござるか!」
「だから何がだ!」
「姓名込みで! 全て呼ばなくても!!」
「じゃあ真田。」
「……そうではなく、名で…」
「イヤだ。」
ツンとそっぽを向いて吐き出された言葉はいつもの外来語ですらない。
問い返す間も与えない速攻の却下であった。

「今更何が不満なんだよ。」

今更、といえばそうなのだ。
口を開けば「アンタ」だの「テメエ」だの。たまーに呼んだと思いきや、「真田幸村」。

この奥州筆頭、基本的に他人の名を呼ぶときは姓名併せて呼ばわるのである。
何の躊躇いもなく名だけで呼ぶのは右目とも呼ばれる腹心、片倉小十郎くらいだ、判っている、嫌と言うほど承知している。
それはいいのだ、普段は別に構わない。
独眼竜を成す一部、血よりも濃い主従の絆と同列に扱えだなんて言えないし言わない。

けれどこんな時くらいは。
右目にさえも見せられない姿で睦み合うこの時間くらいは。

「不満というか、もう少し雰囲気とか読んでくださってもバチは当たらぬと思う……」

「それでも、何も今言うこたぁねえだろ……」

しょんぼりと呟いた幸村の肩がとん、と、両手で押され、そのまま仰向けに転がされた。

きょとんと見上げる瞳の上で、呆れた表情がどこか悠然とした笑みにすり替わる。

「あとな、テメエが色気でオレにダメ出しなんざ100年早い。」

あっけにとられた顔の幸村を見下ろした政宗は、身の内で角度を変えた幸村自身がもたらす刺激に艶めいた表情を無理矢理歪めて、嗤う。
「馬鹿なこと言ってないで、そこで見てろ。」
長い指がつい、と腹筋をなぞり、ゆるりと腰が蠢きだした。
切なげに吐息を震わせつつも、突っ張った腕を支えに腰を浮かし、沈める。
組み敷かれて素直に身を預けていたついさっきまでが嘘のように能動的に、貫くこちらが喰われているような錯覚さえ起こす程に。
予期せぬ刺激に一瞬びくりと目を閉じた幸村を満足げに見下ろすと、自らにも迫り来る悦楽を堪えて下腹に力を入れた。
弾けそうに熟した楔を締め上げられ、これが自分のものかと驚くほど高い声が零れてしまう。
「うぅあ……」
「く……ふぁ…」
同時に響いた甘い喘ぎに目を開けば、上に乗り己を翻弄しているはずの政宗が、思いもかけぬ悩ましげな表情でぎゅっと瞳を閉じている。
尚も見つめる視線に気付いたのか、潤んだ左目が薄く開かれた。
霞のかかった目に、紅い唇がはぐはぐと見慣れた動きをかたどるのが映る。
大気を震わすことはない声が、さなだ、と。
次の瞬間、融け落ちるように上体を崩した政宗が、か細い声を上げた。

「ゆきむら……っ」

鼓膜への振動と共に脳裏に火花が散り、衝動のままに肩をかき抱く。
その間も、ゆらゆらと絶え間なく続く律動に応えるようにこちらからも夢中で突き上げる。
抑えきれない喘ぎ声と灼けるように熱い呼気が耳元に響き、縋りつくように伸ばされた腕が火照った体を抱き返して、そのまま二人で現の岸を越えた。



熱の冷めやらぬ肌を合わせたまま、最高に幸せな気分で腕の中の人に擦り寄る。
ぐったりとした政宗がのろのろと腕を上げ、ぺちりと頬を叩いた。
戯れの域を出ない、些細な抵抗など意にも介さず唇を寄せると、めんどくさそうな顔をしつつも合わせてくれる。
宥めるように、乱れた息を落ち着けるように、穏やかな接吻を二度、三度。
そっと唇が離れれば、慣れぬ行為に疲れ切った様子の政宗は敷布にくたりと倒れ込み傍らで丸められていた掛布を引き上げた。

「さっさと寝るぞ。」
「はい!」

返答と共にばさっと掛布が宙を舞う。
達したばかりだというのに臨戦態勢の幸村に狼狽する政宗を愉快げに見下ろしながら、割り開いた膝の間に滑り込んだ。
「そっ、そっちの"寝る"じゃねえーーーっ!」
「しかし、先刻のお返しもまだでござる。」
「今のアンタじゃお返しだか仕返しだかわかったもんじゃねえんだけどよ……」
不安げな政宗に、とびっきりの笑顔で応える。
「仕返しなど、とんでもない!」

そう、仕返しだなんてつもりは一つもない。
焦らされて、我慢して、一番イイところで与えられる。
今し方教わったそんな悦びを、そっくりそのままお返ししておかねば。
ただ、それだけなのだから。


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