隣人

□隣人〜Prologue7〜
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翌日から幸村は助っ人として、島津組へ夜勤に入ることになった。

朝は八時から六時まで武田組。夜は九時から朝の三時まで島津組に行く。
労働法ブッチギリだが、これもスベテ。
「政宗さんの為だ」
と、幸村は額に汗を流しながら体を動かした。

組での仕事は主にセメント運びだった。重いセメント袋を車の荷台に乗っけて、パワステの欠片も効いていない軽トラで、あちらこちらの現場へと運ぶ。
合間を縫って、冷えきった賄いの弁当を慌てて掻っ込み、また次の現場へと移動する。
そんなコトの繰り返し。


現場監督は口が悪い割りには親分肌で、優しい所もあり、
「オメェ、中々スジがいいなぁ」
だとか、
「ヨッ、その作業着似合ってんぞ」
なんて、時折幸村に声を掛けてくれた。
セメント運びにスジも何も無いだろと思うし、こんな小汚い作業着を似合ってると誉められた所で別に嬉しくも何とも無いのだが…。
悪い人ではなく、職人気質なだけと分かってからは、幸村も素直に言う事を聞いていた。
喧嘩もあったが、あっちも助っ人を頼んでる身の上、必ず監督から折れてくる。
―折れる、と云っても別に「スマン」とか言ってくるとかそんなんじゃなくて。
黙って缶コーヒーを奢ってくれたりとか、そんなんだった。

こういう不器用な人間は幸村も嫌いではない。
ある種、男気が感じられるし、他の現場人間達もそんな連中ばっかりだったので、幸村もすぐに馴染む事が出来た。



貯めたお金もようやく十万の域に達しようとしている。
魅惑のかぐや姫に逢えるのも、そう遠くない話だ。


夢が益々幸村を情熱家にさせた。



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