翔女PRESS

□二次創作のための45のお題
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『40 ラブシーン』
背景:JWPでのエピソード。旗揚げ二年目、初夏。


「ええぇぇぇーっ?!」

 我らかジャスティスレッド/藤原和美の驚きの声がJWP基地に響き渡ったある一日の記録である。

 この日、JWチームに舞い込んだのは次作品の台本。
 このシリーズは元々JWP宣伝PVとして制作されたのだが、PVの域を超えた造り込みに特撮映画ファンも絶賛。JWP司令にして天宮芸能社長の天翔妃の鶴の一声と名乗りをあげたスポンサーのご好意もありビデオシリーズ化したものだ。
 リアル悪の象徴たる世界征服プロレス経営陣の介入も経て人気沸騰の特撮ヒロイン作品として認知されている。
 撮影は興行と興行の中日や興行後に数日とって行なわれており選手たちに負担の少ないように考えられているのだ。

 時間を少しだけ戻してみよう。
 道場で練習に勤しむJWチームの所へ天宮司令が井上秘書官を連れて現われた。天宮司令は集合をかけると「皆、次の撮影決まったわよっ!」と開口一番、そう告げた。
 海外遠征をしていたジャスティスピンク/優香とやっと中学を卒業しレスラーとなれたジャスティスシルバー/橘 みずきの二人が合流したからこその次作品だ。
 井上から手渡された台本に目を通し始めたチームの仲間たち。タイトルに燃えあらすじで目を輝かせ、いちいち頷きながらパラパラと読み――優香とジャスティスブルー/ドルフィン早瀬を除く――四人が固まった。あるシーンのト書を凝視しながら。そこには“ラブシーン”と書かれていた。
 そして。冒頭の驚きに繋がる。


「ん。どしたの?」
「リーダー、何か約束でもあった?」

 優香と早瀬はきょとんと仲間たちを見る。
 この二人、元々が天翔妃の付き人をしていただけに全く動じていない。

「あの、……このラブシーンって……えと」

 ジャスティスグリーン/秋山美姫がおずおずと質問。恥ずかしさで頬が紅潮している。

「子供向けなんだから制限あるじゃないですか!」

 ジャスティスイエロー/沢崎 光が浮上する懸念を意見。彼女も照れ隠しで若干声が上ずっている。「そうですよ」とみずきも同意。

「はいはい。……話は順番にね。司令、お話を」
「ありがとう。霧子さん。貴女たちが危惧しているラブシーンはもう一つのバージョンに入るのよ」
「もう一つ?」
「今回の作品から一般向けとファン向けの二つのバージョンに分けられることになったの。ウチは映像メディアを人気獲得に使ってる分、一日署長等のイベントには関われないからね。こういうやり方は必要になってくるのよ」
「……なるほど。合理的ですね」
「た、隊長!?」

 スパーリングの手を休めて話を聞いていたコマンダーJ/中森あずみと保科優希が話に加わっていた。先に訊ねたのは優希だったらしい。

「貴女たちの出番は少なめなの。一番、最初に撮るからよろしくねーっ」
「お任せください」
「……はい」
「話を戻すわよ」

 この後も話は続いた。撮影スケジュールや共演者などの説明を受ける。真面目な話だったため、ラブシーンのことなど頭から消えていた。

「そうそう。ラブシーンの事だけど。キスありだからよろしく!」

 そう告げて天宮司令は道場を去っていった。

「本番で恥ずかしくなっても困るし、リハーサル誰かにお願いしたら? ……例えば、速水くんとか」

 そんな助言を残して井上は「ほほほ」と笑って天宮の後を追った。

 速水俊輔。藤原和美の幼なじみで三つ年上のお兄さん。JWPのバスの運転手であり、選手たちと年が近いという観点からメンタルケアも任され、選手たちの数少ない男友達として慕われている。

「お兄ちゃん」
「俊兄」
「俊兄ちゃん」
「速水さん」
「俊ちゃん」
「速水くん」

 和美、光、みずき、美姫、優香、葵――それぞれのリハーサルは如何に。


[藤原和美の場合]
 練習を終えた和美は食堂へ向かう。
「はあぁぁぁ……」
 椅子に腰を降ろした和美は盛大に息を吐き出しながら机に突っ伏した。
(お兄ちゃんとキス、お兄ちゃんとキス、お兄ちゃんとキス……)
 考えただけで頭がぽぉーっとなる。今まで意識した事がなかったわけじゃないけど……とかぶりを振る。
「……どうしよ……」
 家がお隣同士で小さい頃からよく遊んでもらった。勉強を教わったり、一緒に旅行行ったりもした。そもそもヒーロー好きになったのもお兄ちゃんたち男の子に交じって遊んでいたからだしと懐かしい思い出に目を細める。
「……お兄ちゃん、なんでここまで付き合ってくれたのかなぁ」
 浪人生として上京していたのに大学受験を辞めてJWP正隊員になったと告げた日の事を思うと嬉しいと思う反面、苦しくもあった。
「よぉっ。和美、なんか元気ないな? 大丈夫か?」
「お兄ちゃん、かぁ……」
「なんだよ。らしくない。熱でもあるのか?」
 ごく自然に額と額を合わせる速水。食堂の入り口から見られればどう映るだろうという体勢。
「……んぅ。……もぅ。お兄ちゃんてば」
 額が離れる。速水の頭に隠れて見えなかった入り口が視界に入ると和美は顔を強ばらせた。


[秋山美姫の場合]
 練習が終わった後はいつものように優香とお喋り。話題はもちろんラブシーンのこと。
「キスの一回や二回、全然平気だよ。減るもんじゃないしね」
 優香は案外あっさりと私にそう言った。困惑する私に優香は「何事もね、経験よ。け・い・け・ん」と笑う。
「俊ちゃんとならいいと思うけどなぁ。……ダメ? じゃ、アタシとキスする? 美姫ならいつでもオッケーだよ」
 私が怒ると逃げるような駆け出した優香。お腹もすいたからと食堂へ足は自然と向かう。
「優香、どうしたの?」
 食堂の出入口でこそこそと中を窺っている彼女に声をかける。優香は口元に人差し指を当て「しぃー」と小声で咎めてくる。私も気になって彼女の後ろから食堂の中を覗き込んだ。
「……え?」
 和美と速水さんがいた。テーブルに腰掛け上向きに顔を上げた和美に重なるように速水さんの顔が押しつけられている、みたい。
 ――キス、してるの?! 嫌、やだ!
 頭が真っ白になった。きっと……私、泣いてる。


[優香の場合]
「美姫ってば何処いっちゃったのよーっ!」
 美姫が飛び出していった後、リーダーと俊ちゃんに直撃してみたんだけど、なんてことない。あたしたちの勘違い。ちょっと考えたらわかることなのに。タイミング悪すぎだよ、ホントにさ。
(……美姫、もしかして……本当に?)
 考えるのは後々。まずは美姫を見つけて誤解を解かなきゃね。
「葵! いいところに!」
 当事者が捜しにいくのは問題ありだけど葵なら美姫も逃げたりしないかな。

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