翔女PRESS

□愛と友情と勇気のお題目
6ページ/6ページ

09 誓い
背景:ヤングリーグ二次リーグ。VSNEW WIND戦。


 ヤングリーグはまだ新人といってもいいニューフェイスたちが一同に会しその持てる力を尽くして闘う大会である。
 翔皇女子から参戦した吉田龍子も自分を試しにきた一人だった。
 一次リーグはずば抜けたパワーとスタミナで無難に勝利を掴み二次への枠を獲得した。

「気持ちは切り替えな、龍子」
「…………わかってる」

 一次の戦績は六勝二敗。二敗の内のある一敗に龍子は心を乱されていた。
 ――わかってるさ。あたしは舐めてなんかいない!
 セコンドを務めた六角葉月は龍子に新人特有の危うさを感じていた。


 数日が過ぎて二次リーグが始まった。対戦表を見ればNEW WINDの文字があった。一軍メンバーが仕掛ける交流戦でも何度か対戦している強豪だ。

「このリーグ中はこの娘にもセコンドやらせるから、しょっぱい試合なんかするんじゃないよ!!」
「優姉ぇ……なんで、ここに?……」

 試合会場の控え室に従姉で翔女のエースを務めていたライデン龍子が見知らぬ少女を連れて入ってきた。
 ――この娘は。
 和希のように元気良く挨拶してきた彼女に惹かれるものがあった。

「よしっ! いくぞ!」

 ぱしーんと頬を叩き立ち上がり、龍子はリングへと向かった。


 試合はすでに最終戦を残すのみ。これまでの戦績は四勝三敗。まずまずというところか。

「焦りすぎだよ、龍子は。落とさなくてもいい試合を自ら潰してね」
「……チッ」

 優姉の指摘にいらつく龍子。わかってると強い反発を示す。
 初戦からつまづいた。
 対戦した鏡 明日香をパワーで一気に追い詰め勝利を確信した。焦ったつもりはなかった。だが、結果は――サソリ固めが決まりギブアップ負け。間接使いとの闘いは今の龍子の実力では正直分が悪い。相性最悪といってもいい。それなのに……龍子は勝ち急ぎ鏡の狙いに気付けなかった。
 初戦を落としたことが龍子のリズムを狂わせた。一次リーグまさかの敗退を喫した星野ちよるとの一戦までが思い出され、龍子の心をかき乱した。
 そんな龍子を励まし平常心をもたらしたのはセコンドにつく少女だった。

「あたしは力一杯攻め込んでゆく龍さんの闘い方好きですよ。でも……」
「…………」
「躊躇っちゃダメです。龍さんは迷わない方が断然強いですって!」
「あたしをバカにしてんのか」
「はいっ! あ、ええっと……その……バカになりましょう! 悔いが残らないように!」

 ――バカになれ。
 龍子の心を覆う靄を吹き飛ばす一言。自然に笑いがこぼれだす。

「バカに……か。言うじゃない、新米」
「す、すいませんっ!」
「さんきゅ」

 何か吹っ切れた顔つきを見せて龍子は最後の一戦へ足を踏み出す。

「岩城ィーッ!!」
「こいっ!」

 ゴングが鳴ると同時に龍子はダッシュし岩城との間合いを詰める。背後から新米の声援が飛ぶ。口元が弛む。力が沸いてくる。いつもよりも一歩深く、強く踏み込む。ドンッ!とリングが軋むような音をさせて豪腕が岩城の首を捉える。咄嗟にガードした岩城をその身体ごと吹き飛ばす。

「おおぉぉぉーーっ!」

 振りぬいた腕をグッと引き戻してロープに振られ戻ってきた岩城を迎撃態勢。喰らってたまるかと踏張……それを待っていた龍子の腕が岩城の首に巻き付き、グンッと力強く後方へ引き倒す。

「ガッ!」

 流れのまま勢いの乗ったDDTが炸裂。一瞬、岩城の意識が飛んだ。

「龍さぁーん! いっけぇぇーっ!」
「っしゃあぁぁー!」

 頭を振り立ち上がろうとした岩城に覆いかぶさりなから腰をクラッチし力任せに浮き上がらせる。岩城の身体が天地逆にされ、なすすべもなくリングに叩きつけられる。龍子が中盤の繋ぎとして使うタイガードライバーが決まったのだ。
 観客からどよめきの声。すぐに歓声へと変わる。それだけこの展開は予測不能だったのだ。
 NEW WINDのレインボー岩城はホーム戦における戦績は全勝。それは一次リーグも含めだ。いくら翔女のホーム戦とはいえ、下馬評では龍子に勝ち目はないとされていた。それだけにこの衝撃は計り知れない。

「ガフッ!!」

 龍子はフォールにはいかず打ち付けた岩城を再び引き上げもう一発タイガードライバーを放った。

「ワンッ、ツゥ、ス」
「ま、まだまだぁー!」

 3カウント目前に意識を取り戻し返す岩城。気力を振り絞り転がって龍子から逃げる。

「根性なら負けるか!」
「そのまま眠ってればいいのにな……」

 岩城の闘志を受けて楽しそうに笑う龍子。
 ――いいぞ、岩城。もっとプロレスをやろうじゃないか。

「潰れろォ!」
「させるかァー!!」

 先に組み仕掛けた龍子に対し岩城は踏張って堪え切った。浮き上がる龍子、リングに叩きつけられる。リバーススープレックスだ。龍子は自らの体重と岩城の体重をモロに受ける。

「くそがっ!」
「いつまでもやらせるかァー!」

 先に立ち上がっていた岩城は冷静に龍子を捌いてアームホイップ。
 龍子の怒濤のラッシュはここまで。岩城の反撃が始まった。
 そして。
 無情の3カウント。勝ったのはレインボー岩城。

「龍子さん、また闘ろう。楽しかった」
「ああ。またな、岩城」

 岩城の掲げた掌を龍子の掌が叩いた。
 再戦の誓い。今度は負けはしない、と。

「……新米、参考になったか?」
「もっちろんでっす!」

 ――あたしもレインボー岩城ですからっ。
 龍子の試合は終わった。だが、これは始まりにすぎない。

「あたしも負けないさ!」

 誓いは夢を掴む原動力なのだから。



後記:
ヤングリーグ回想です。タイガー三連発してれば勝機は見えていただけに惜しい試合でした。プラズマサンダー狙いが仇になったけど楽しかったですね。
Nさん、また対戦してくださいね。

《2007/12/18》
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ