翔女PRESS

□愛と友情と勇気のお題目
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25:めぐりあい
背景:軍団『ぱわぱわがーるず』のオーガ朝比奈選手を見つけるに至ったエピソード。


 ――あの人は?
 軍団交流戦からの帰り道の事でした。
 本を読む手を休め、ふとバスの窓から外へ目を向けた私の視界に入った人物。一瞬の事でしたが、何故か心に残ったのです。他人の空似かもしれません。交流戦でも相手をしてくださる『ぱわぱわがーるず』さんの公式HPでレポートされている記事が気になっていただけかもしれません。それほどに――オーガ朝比奈選手の所在――を、私は気にしていたのです。

 翌日のオフを利用して、私はあの人影を見かけた街へ行ってみることにしました。
 たまのおでかけということもあり、パートナーの真琴や和希さんになぎささんまで付いてきてしまいましたが。不確定要素が大きい現状ですから、彼女たちが一緒にいるのは心強かったのです。
 路線バスを乗り継ぎながらようやくホリッ区八番街へ辿り着いた私たち。
 ホリッ区は別名“妖かし街”と称される不思議な事が起こる街区だそうで、気掛かりがある人がやってくるとその悩みが解決するらしいという話です。
 噂に信憑性はありませんしね。私が見るかぎり、普通の街です。

「それで……何処へ行くんだ?」
「……そうですね」

 真琴に訊かれてようやく私は自分のした事に気付きました。手掛かりは八番街ということだけ。それ以外に情報はなし。私としては迂闊です。愚かでした。

「……ふわふわ……」
「あっ! なぎさちゃん、待ってよ!?」

 どこからか飛んできた風船を見つけたなぎささんがそれを追い掛けて行ってしまうじゃないですか。和希さんも慌てて後を追い掛けます。私も真琴と一緒に追い掛けて――その先に昨日に目を留めた人影を見つけたのです。そう。朝比奈さんの姿を!

「おっと、あぶねぇなァ? ……って、なぎさ?」
「……とった……」

 ぶつかりそうになったなぎささんを受けとめる朝比奈さん。受けとめられた時に少し身体が浮いたおかげで風船の紐を掴めたなぎささん。朝比奈さんには何故か動揺が見られるようですが……。

「なんで……いる……」

 なぎささんを誰かと重ねているのでしょうか。

「?……ふわふわ……追い掛けてきた……」
「すみません! すみません! なぎさちゃんがご迷惑をおかけしました!」
「相羽? うちの連中じゃないのか?」

 和希さんの登場に明らかに落胆したような表情が浮かびました。
 もしかすると……もしかしますね、この人は。
 私は確かめてみる事にしました。それが今日の目的なのですから。

「私の連れが失礼いたしました。私は『翔皇女子』に所属しています、杉浦美月といいます。貴女は……『ぱわぱわがーるず』のオーガ朝比奈選手ではありませんか?」
「…………」

 朝比奈さんは黙っています。目を瞑り、腕を組み、ただ黙っています。

「……歯ァ食い縛れぇ!」

 この沈黙を破る存在。そう一人いました。なぎささんです。

「な、なにすんだッ! このやろ……? なんだ?」
「……手紙…………喜ばせてあげて……」

 殴りかかるかと思われる不意の行動には面食らいましたが、なぎささん得意のフェイクでした。朝比奈さんに差し出されたのは先程手に入れた風船です。風船の紐にはビニールに包まれた手紙が付いていました。

「……あいつら」

 朝比奈さんは手紙を読みました。とても嬉しそうに笑い、とても大事そうに手紙をポケットにしまいました。

「なぁ、あいつら元気だったか?」
「貴女が自分で確かめた方がいいと思います。あたしなら、そうします」
「だよな」

 朝比奈さんの問い掛けに真琴が答えました。朝比奈さんは満足な笑みを浮かべて頷きました。
 確認のため、もう一度、私は朝比奈さんに名を訊ねました。

「ああ。オーガ朝比奈とはアタシのことさ!」

 私は携帯を片手に彼女との再会を待ちわびる人達――『ぱわぱわがーるず』へ連絡をいれました。自分としては珍しく慌てていたのかもしれません。現在地を細かく伝えることができませんでしたから。

「……大丈夫……なぎさは風船のエキスパートだから……」

 なぎささんの言葉の根拠はわかりませんが、私はそうなると信じています。

「美月、いいとこあるじゃないか」
「『ぱわぱわ』のなぎさちゃんたちの喜ぶ顔が目に浮かぶね!」

 真琴も和希さんも今日のおでかけに賭けた私の真意に気付いたようです。

「願いや祈りは届くものなのです。それがめぐりあう宿命ならば……」


 そして。
 オーガ朝比奈選手は『ぱわぱわがーるず』との合流を果たしたのでした。



後記:
水瀬様が運営する『窓の向こうのものがたり』レッスルコンテンツの『レッスルエンジェルス語り』にてレポートされている《朝比奈探して3000コード》に触発され、こちらでも探してみたら、意外とあっさり発見できました。一度スルーしてしまうほどに。

折角ですのでSSに起こしてみました。楽しんでいただければ幸いです。

《2007/11/21》
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