☆短編夢☆
□前言撤回
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『前言撤回』
「ゴーン♪」
「ん?」
ぷにっ
突き出した私の指は、見事にゴンの頬を突いた。
「ふふっ。ゴン、また引っかかったー♪」
「くっそぉ〜、次は引っ掛けられないように気をつけてたのに〜!」
そう言ってゴンは、唇を尖らせた。
素直な性格、柔らかい頬、くりっとした大きな瞳、幼さの残るしぐさ―――――。
全て当てはまってしまうゴンは、私の可愛い彼。
抱きしめたくなるような、可愛い、可愛い男の子―――――。
***
日はすでに沈み、辺りが暗くなったとき、私は人気のない、細い道を歩いていた。
夕食の準備をしている途中に、醤油をきらせていることに気付き、近くの店で買ってきた帰りだ。
「ちょっと遅くなっちゃったかな?」
時間も遅いため、少々足を速め始めると、背後に人の気配がした。
「彼女、1人?」
その声に振り向くと、ニヤニヤとした目つきの、いかにも怪しそうな男が立っていた。
気味が悪くなり、そのまま無視して行こうとしたが、腕が掴まれ動けずにいる。
「これから俺とどこか行こーよ。」
必死で抵抗しようとしたが、力の差は歴然で。
「さ、・・・触らないでっ・・・。」
その私の一言が気に入らなかったのか、男は更に腕に力を入れてきた。
「生意気言ってんじゃねーよ!」
「っ・・・!」
しかも、男からは強い圧迫が感じられ、私はその感覚に押し潰されそうになっている。
これが、ゴンの言っていた「ネン」というものだろうか。
――― 助けて・・・ ―――
足はガクガク震え、体を支える力を手放そうとあきらめ、目をきつく瞑った、そのとき。
ふわっ・・・
急に圧迫がなくなり、逆に何かあたたかいもので包み込まれる感じがした。
驚いて目を開けると、目の前にはゴンの背中があった。
その背中は、いつもの幼さや可愛さなど微塵も感じさせない、大きな大きな背中だった。
「・・・、ゴンッ!」
ゴンは私と男の間に立ち、男の気味の悪いオーラから私をかばい、優しいオーラで包んでくれている。
良かった。もう大丈夫だ。
私は無意識の内にそう思い、その場にへなへなと座り込んだ。
そんな私の様子に気付いたのか、ゴンは私の隣にしゃがみ、そっと肩を抱いてくれた。
だが、ゴンは私の肩を抱いたまま、顔だけは男の方へと向けている。
それは、男がまたつっかかってこようとしているからだった。
「オイ!
ガキが何邪魔してくれてんだよ!!」
その声を聞いたとき、私はビクリと体を振るわせ、ゴンの服をギュッと掴んだ。
「何ならお前にもオレの念w・・・。」
男の語尾がにごった。
そして、こちらに背を向けたと思うと、あわてて逃げていった。
私はしばらくあっけにとられていたが、ゴンの顔を見て、男が逃げ出した理由がすぐにわかった。
ゴンが、男を突き刺すような瞳で睨んでいたからだ。
何故?
何故そんな瞳ができるの?
あんなに丸っこくてクリクリした瞳が、今は相手を射抜くぐらい尖っている。
私を抱く腕も、顔をうずめた胸板も。
いつのまにか、こんなに大きくなってたんだね。
「ずるいよ、ゴンは。
いつから、こんな―――――。」
―――――格好よくなったの?
「ん?」
可愛いなんて言葉は撤回。
ゴンはすっごく、カッコイイんだ―――――。
―END―