黒河探偵事務所

□memory【前編】
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「私達、親が居ないんです」



 紗江は俯き、静かに語り出した。




「物心ついた頃から、私達には親が居なかったんです。だから、小さい時から孤児院で育ってきました」



 孤児院。

 『事実上は』と言ったのは、そのせいか。

 何も知らなかったとはいえ、辛い事を聞いてしまった。と、神崎が眉をしかめた時……紗江が手にしていたハンカチを、強く握り締めた。



「ですが私には、妹がいます。私と一緒に孤児院に入った、たった1人の身内。家族……そして……」




 そしてもう1人。今の夫、望月賢治だ。

 賢治は紗江よりも1つ歳が上で、同時に2人よりもずっと早くに孤児院へ入った。


 2人の兄のような存在。

 しかし、何時しか紗江は賢治に恋心を抱いていた。
 紗江は賢治に想いを伝え、賢治も紗江に恋愛感情を持っていた事を知る。


 2人は結ばれた。


 そして賢治は15歳になり孤児院を出て、懸命に働きながら紗江を待った。

 そして紗江も孤児院を出た時、2人は約束通り同居した。



 そして、賢治が18歳になり……2人はついにゴールイン、結婚したのだ。


 苦しい生活。
 だが3年後、2人の間に待望の赤ちゃんが出来た。



『私達に新しい家族が増えたの』



 賢治も喜び、孤児院を出ていた悠子も祝福した。
 そして新しい家族で、宝物“栞”が誕生したのだ。


 栞が生まれてから、紗江も賢治も、貧しいながらも幸せに暮らしていた。

 賢治は少しでも多く稼ごうと昼の仕事と夜勤を掛け持ち、家族を養った。
 紗江もそれに答えようと家を守り、栞も明るく真っ直ぐで、元気な子に育った。



 しかし栞が7歳になったある日、突然紗江の妹、悠子が押し掛けてきた。

 悠子の言い分はこうだ。



『勿論お金はちゃんと出すわ。だから、4人で暮らしちゃ駄目かしら? 私、1人で暮らすのが不安で寂しくなっちゃった』



 2人は悠子を歓迎した。

 栞も、親以外に見る初めての身内に緊張し警戒していたが、すぐに打ち解けたのだった……。





「なるほど……だから、今は妹さんも一緒に暮らしてるんですね」

「はい。ですが……最近、様子がおかしいんです」

「……と、いうと?」


 
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