黒河探偵事務所

□関西弁のアイツ
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 暫く続いた言い合い。

 佐川も落ち着きを取り戻し、漸く神崎の存在に気が付いた。
 神崎と視線が合い、すぐさまその目は見開かれた。



「……オッサン?」

「やっぱ、佐川チャンやった」



 “オッサン”。
 それに“佐川チャン”。
 初対面が交わす会話じゃないのはすぐにわかる。



「……え。佐川、仁さんと知り合い?」

「知り合いもなにも……昨日コイツに小銭貸したんだ」

「缶コーヒー飲みたかってんけど、小銭が無かったんや」

「……」



 今の刑事はそんなんでいいのか? そして、自分の師匠も。

 そう、黒河は色んな面で現代社会が心配になった。

 しかし、『千円崩して財布が重くなるのは嫌』だなんて。なんとも神崎らしい理由だ。



「そのまま公園のベンチで一緒にコーヒー飲んでたんよ。ほったら意気投合してもうて」
「メアドも教え合ったんだ」

「ツッコミ所がありすぎて…………もう、いいや」



 仮にも刑事。
 なのに、そうホイホイメールアドレスを教えていいものなのか。



「次会うの、いつにしようかって考えてたんだ。丁度いいな」

「せやねぇ。んじゃ、120円な」



 常時ポケットに小銭が入っているのか、手を突っ込むだけで容易く小銭が出てきた。
手の平に乗る小銭から120円だけを取り出し、佐川に渡す。



「ん、オーケー」

「佐川チャン、何の用や?」

「俺?いや、暇だったから」

「さよか」

「オッサンは?コイツに依頼か?」



 ちょいちょいと黒河を指差し、不思議そうな顔をする佐川。



「んー、ワシも暇やったから。事務所、向こうからこの街に移したんよ。ホンマ、この近所に」

「え!? 仁さん事務所移したんですか!?」

「せやでー」



 “向こう”とは、元々神崎が事務所を置いていた街。
 県外で、黒河達ともそうしょっちゅう会えない場所にいたのだ。

 話の内容からして、この街に越してきたというが……。



「ちょ、待て」

「なんや?」

「お前達、どういう関係だ?」

「あれー、言うてなかったっけ? ワシ、これでも探偵やねんで」

「……うそーん」

「ホンマホンマ。んで、クロ坊には“師匠”〜なん、呼ばれとるんよ?」

「……ししょー?」




 今の佐川は実に間抜け面だ。

 ただのオッサンだと思っていた男が探偵で、あの黒河の師匠だったなんて。



「佐川、クチ開いてる」

「……だ!? れ、玲お前なにしてんだよ!!」

「あ……クチが開いてたモンだからつい」



 玲の手には、ボールペンが5本握られていた。



「入るかなーって」

「入るか! 馬鹿かァお前!!」


 
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