黒河探偵事務所

□関西弁のアイツ
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『ワシもババ抜き混ぜてや』



 神崎のその言葉で、再び始まったババ抜き。

 鼻唄混じりのご機嫌でトランプを整える神崎を、不思議そうに見る玲。



「……神崎さん」

「なんや?」

「なんでそんなにご機嫌なんですか?」



 神崎の顔をまじまじと見ながら玲が言う。
 すると神崎は、にっこり笑って答えた。



「こーんな美人とババ抜きできるなんてな。ご機嫌にもなるわ」

「……ありがとうございます」



 玲が赤面してトランプに視線を戻し、ダブったカードを捨てていく。
 柔らかな陽射しが、玲の長い睫の影を作る。

 すると、神崎が黒河の耳へ口を寄せて耳打ちをした。



「……ホンマ、日に日にキレイになってくなぁ。お嬢は」

「そうですね」

「お前、よぉ我慢できんなぁ」

「は?」



 ポソポソと耳元で呟かれた言葉。
 初めはその意味が理解できなかったが……。



「ワシやったらスグ手ぇ出すで」



 その言葉で理解した。

 そして、その言葉によって自然と連想させるのは佐川。

 初対面の玲をいきなり襲ったアイツ。

 そう考えていると、つい言葉がでてしまった。



「そんな、佐川じゃあるまいし」


「ん、サガワ?」

「クロさんの同級生の刑事さんですよ」

「……刑事……」

「え、知ってるんですか?」

「んー、気にせんといてー」



 トランプに視線を留めたまま、話題は佐川の話になった。
 先ほどの神崎の反応が気になるが……。




「んで? ソイツはインテリ眼鏡なん? 不精髭伸ばしてるんか? それとも、熱血チャンか」

「事件で忙しくって、寝る暇もなければ不精髭が生えてる時はたまにありますよ」

「ほぉー」

「背が高くって、髪の毛は……こう、立ってます」

「しかも、ソイツは玲ちゃんに会って初日で襲いやがったんです」

「な……!? な、なんや! お嬢、とうとうキズモノになったんか!?」

「いや、間一髪で僕が助けました」

「ん、よぉやった。クロ坊」



 ガシガシと黒河の頭を撫でる神崎。
 その行為さえ、佐川に似ていた。



「本当、“セクハラ刑事”っていうのはぴったりです」




 すると次の瞬間、大きな音をたてて事務所のドアが開いた。



「テメェ黒河ァ!!!」



 そこから飛び込んできたのは佐川。
早足で黒河に近付くと、頭を平手で叩いた。


「痛い!」

「いま、俺の悪口言ってなかったか!?」

「言ってない!!」

「嘘つけ!」

「確信はあるのか!?」

「無ぇ! 刑事の勘だ!!」

「勘かよ!!」



 その言い合いに要した時間は約5秒。
 その早口の会話に、爆笑した神崎だった……。


 
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