黒河探偵事務所

□関西弁のアイツ
2ページ/7ページ






「クロ坊〜!」



 少し乱暴に事務所のドアが開いた。
 黒河のことを“クロ坊”と呼ぶその男。



「あ、神崎さん」


「おお! お嬢、またキレイになったんとちゃう?」

「お世辞はよしてくださいよ。……でも、ありがとうございます」

「いやいや……ホンマやって」



 神崎という関西弁のこの男。
 黒河より一回り年上のようだ。
 そこへ、神崎の声を聞いた黒河がやってきた。



「仁さん、久しぶりですね」

「おーっ! クロ坊、元気か?」

「えぇ、仁さんも元気そうで」

「ワシはいつでも元気やで? 春先は花粉症やけどな」



 杉花粉なんざ嫌いじゃ、と、ケラケラ笑う神崎。
 すると、テーブルに置いてあるトランプを発見し、ニヤリと笑って2人を見る。



「なんや、大の大人が昼間っからトランプかい」

「お客が来なくて……暇なんです」

「ほぉー、そりゃ気の毒なこっちゃ」

「聞いて聞いて、神崎さん! クロさん、ババ抜きめちゃくちゃ弱いんですよ」

「そりゃクロ坊らしいわ」



 豪快に笑う神崎、そして顔を赤くする黒河。
 すると赤面しながらも、黒河が神崎に聞いた。



「そうだ、今日は何の用ですか?」

「ん? あぁ、ワシも暇やったから遊びに来てん」


「「え」」




 ケラケラと笑ってそう言う神崎を、唖然とした表情で見る2人。



「仁さん……事務所は?」

「んー、今日はぬくいし。事務所空けてきたー」


 言い訳にもならない、そんな理由。
 しかし、それがどうした、というような顔をする神崎。

 ところで事務所というのは……。



「もう、神崎さんも一応クロさんの師匠なんだから……」

「そうですよ。部下の人達は戸惑ってますよ……探偵事務所」

「師匠とかこそばい呼び方すんなやー……照れるわ。ただ、探偵のイロハを教えただけや」



 そう、この男 神崎仁は、ベテランの凄腕探偵であり、黒河の師匠。
 探偵になって間もない黒河に、探偵のイロハを教えたり、色々と面倒をみてくれたのだ。


 最も、神崎本人はそんなことは何とも思っちゃいない。


 『初心者やし、クロ坊はエエ子やったから。ちゃっちゃーって教えたっただけや』と、いつも言う。



 探偵という少し珍しい職業で社会に出てきた黒河にとって、神崎の存在は大きかった。
 気さくな性格に、お人好し。それでいて、叱る時はキチンと叱った神崎。


 それはもう、黒河の師匠に等しい人物だった。


 勿論、今もそれは変わらない。
 黒河の尊敬する探偵なのだ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ