黒河探偵事務所

□セクハラ刑事にご用心
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「そりゃいい話ですね! 乗ります!!」



 お盆を胸に抱え、その場をぴょんぴょん飛び跳ねる玲。



「ちょっ……玲ちゃん!」

「大丈夫ですよー、クロさん!」

「だだし、この話はあんまり表沙汰にすんなよ」

「え、なんでですか?」

「そりゃあ……その、警察の面子がだな……」



 俯いてゴニョゴニョ呟く佐川。



「俺は別にどーでもいいんだ……。上が、な」



 きっと、上司命令なのだろう。
 すると、玲は佐川に近付いて言った。



「まぁ、大丈夫ですよ。そんなこと言いませんから」

「なら……いいがな。じゃあ、交渉成立か」

「やった!」



 そう言うと、佐川の手を取りブンブン振る。



「よろしくお願いしますね! 佐川さん」

「ああ。玲……か?」

「はいーっ!」

「んじゃあ、玲って呼ぶわ」



 その時。



「玲ちゃん、スタンガンっ」

「えっ――」




 玲の視界が1回転した。

 目の前には、佐川。



「うわああ、玲ちゃんっ!!」



 黒河の声が遠く聞こえる。
 背中のこの感触は、ソファだ。


 そう、玲は佐川の手によってソファに押し倒されていたのだ。


 あまりの早業に、思わず目を見開く。



「え、え?」

「1m以上近付くから悪ィんだぜ? 玲」

「さ、佐川さん……!?」

「お前、俺のタイプ」

「は……っ!?」

「金に抜け目無い女も、面白ェ」

「っ……!?」


「気ぃ抜いてっと、襲うぞ?」



 そう耳元で囁かれ、肌が粟立つのがよくわかった。

 手を動かそうとしても、上手く組み敷かれていて動けない。



「く、クロさんっ!!」

「コラ、動くなよ」



 その時。



 何かと何かがぶつかったような、鈍い音が事務所に響いた。


 佐川の頭に黒河の肘打ちが決まったのだ。
 ズルリとソファから崩れ落ちる佐川。



「ったく、僕が居ることを忘れるな!」

「……痛ェ」

「玲ちゃんに会って初日で盛るな! そして襲うな!」

「……ちっ、もう少し……」

「お前、反省してないだろっ!?」

「男の本能だ」

「本気の踵落とし喰らわすよ?」



 にっこり笑う黒河の笑顔は、本気だ。
 それを見て青ざめる佐川。



「お前、大人しそうな顔して、そういうトコ怖ぇよな……」

「ん、ありがとう」
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