黒河探偵事務所

□セクハラ刑事にご用心
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「えっ!?」

「あっ……! す、すいません」



 来ていきなり『静かに』と呼びかけられ、困惑する男。

 それを見て、とっさにしてしまった自分の行動に気付き、赤面する。



「し、失礼しました……つい……」

「いや……別にいいんだけどよ」



 ああ、焦った と苦笑する男に、更に顔を赤くする。



「あ、ご用件は……?」

「そうそう、所長さん居る?」



 キョロキョロと辺りを見渡し"所長さん"を探す男。



「所長……あ、クロさんですか?」

「クロサン?」

「あ、うちの黒河です。一応……所長の」

「黒河……そうか。じゃあ、黒河さんは居られますか?」

「黒河……は、ですね」




 困った。


 黒河が寝てから、まだ20分も経っていない。

 果たして、起こしてもいいのだろうか。

 客のほうが大切なのだろうけど、少し胸が痛む。


 本来なら、何があっても客を優先させるのが普通だが、玲にはそんな事を考える余裕はなかった。



「あの」
「へいッ!?」



 考え過ぎて、思わず飛び上がってしまった玲。
 しかも、間抜けな声を出してしまった。



「へいって……」

「う……、す、すいません」

「黒河さん、何か用事なのか?」

「いえ、いや、その」

「ん?」

「用事っちゃあ用事だけど……用事……じゃない……です」

「なんじゃそりゃ」


「あの……その、寝てるん……です」

「寝てる!?」



 男は眉間に皺を寄せ、意味がわからない、そんな表情を見せる。



「あのですね、黒河……クロさんは、ここの所全然睡眠をとってなくて……」

「ほう」

「変わりに私を休ませてくれたから……その、凄く眠そうなんです」

「へえ」

「だから……今、寝てるんです」



 一方的な説明をする玲。
 しかし男は怒る事もなく、呆れた様子もない。
 逆に、興味津々な顔でコチラを見てくる。



「アンタ、面白いな」

「へっ?」

「じゃあ、黒河さんが起きるまで待つからさ、話聞かせてくれよ」

「え、ええ、いいですが……じゃあコチラへどうぞ」



 男にソファを勧める。
 あの話で、何に興味を持ったのかはわからない。しかし、待っていてくれると言うのだ。
 お言葉に甘えることにしよう。


 
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