黒河探偵事務所

□メイドの悲劇【後編】
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 本気でヤバい。

 最後の望みと思ってクロさんに電話したのに、牧田に見つかってしまった。



「……電話してたな?」

「あ……」

「ナメた真似してくれるね、キミ」



 怖っ……。


 いきなり拉致されるわ

 私が由那さんじゃないってバレてから態度は一転するわ

 電話してるトコは見られるわ……。



 もう最悪。





「あの……」

「あ?」

「……わ、私、どうなるの?」

「さあ? アンタ由那ちゃんじゃないしなー……あ、でもアンタも結構カワイイから、僕の専属メイドにでもなってみる? ハハハ」



 専属メイド? ふざけないで。

 そんなモノになるくらいなら、メイド喫茶でタダ働きの方がまだマシ。



「ほら、なんとか言えよ」

「……」



 喋りたくない。

 こんなヤツと喋ったら余計に気分が悪くなりそうだ。



「なにシカトかましてくれてんの?」

「……」

「……おら、なんか言えよ」

「っ……やめて」



 触らないで欲しい。


 すると牧田は、少し強引に私の頬に触れてきたので、つい手を払い除けてしまった。



「はァ? なに余裕ブッこいてんの? ムカつく」

「……えっ」



 牧田の目の色が変わった。




 えっ、もしかして怒ってる?

 ヤバいくらい短気だ。




「オラ なんとか言えっつってんだよ!」



 牧田は立ち上がり、コチラに襲いかかってきた。



「っ……や! 来ないで!!」



 後退った手に何かが触れた。
 私は恐怖でそれを掴み、牧田めがけて思いきり投げた。


 ……それが、いけなかったのだ。





「っ………」



 鈍い音をたてて牧田の頭にぶつかった物。

 それはガラス製の灰皿だった。


 頭を抑えて崩れるように屈んだ牧田の指の間からは、鮮やかな色の血が流れていた。

 自分も初めは戸惑ったが、相当ダメージが大きそうだ。
 これで牧田も暫く大人しくなるだろうと少し落ち着いたのだが。


 牧田は大人しくなるどころか、鬼のような形相でこちらを睨んでくるではないか。



「テメェ……っ! なにしやがる!!」

「ひっ……!」



 牧田は、血まみれの手で私の首を絞めてきた。



「……っ……や、め……」

「フン……もういい。お前、死ねよ」

「くっ……ぁ……ッ」



 ギリギリと容赦なく締め付ける手を、力なく叩くという最後の抵抗をみせる。

 それを見た牧田は再び鼻で笑い、首を締める手に一層力を込めた。


 意識が段々遠のいていくのがほんのりわかる。




「んぁ……っ……」




 ヤバいよ。

 マジで死ぬかも……っ。


 ……クロさん……ごめんなさい……っ!





 
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